- 作者: 森島明子
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2008/10/18
- メディア: コミック
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あったかくて嬉しくてリアル感にあふれた、生身の恋。
こここ困った。この面白さ、素晴らしさをどう伝えたらいいんだ。大げさな話、読んで喜ぶとか萌え転がるとかそんなレベルでは済まなくて、なんか涙が出そうです今。えーと、えーと、とにかく良かった! あのエクセレントな百合短編集『楽園の条件』をものされた森島明子さんが、今度は長編でじっくりと女のコ同士の恋を描いておられるんだから、もう、すごいなんてもんじゃない。可愛くっておいしそうな女体描写といい、恋の過程の丁寧なプロセスといい、ステレオタイプの扱いといい、ガチな人のあたしが「そう! そうなのよ!」とぶんぶん首振ってうなずきまくってしまうリアル感といい、どこをとっても一級品。未読の方は、こんなあたしの拙い文なんか読んでないで、ダッシュで本屋さんに走ってくださいー!!
……と、絶叫してやや落ち着いたところで、レビューの続きをどうにかこうにか書いてみます。
『半熟女子』は、自分の女のコらしさがコンプレックスな「八重」と、男らしさ・女らしさをまるで気にしないスポーティーな「ちとせ」とのめちゃくちゃキュートなラブストーリー。八重とちとせの他に、生徒×先生の百合カップルも登場し、このふた組の恋人たちを通して女のコ同士の恋の嬉しさ・素晴らしさががっつり描かれていきます。以下、よかったところを列挙してみます。
『半熟女子』のここがすごい
1. 可愛くておいしそうな3D女体描写
『楽園の条件』もそうでしたが、今回も女のコの身体の描き方がそれはそれはいいんですよ。生身の女のコのやわらかさや可愛らしさをいつくしむように描かれたあの立体的な絵柄がたまりません。ちゃんと漫画の絵になっているのに、骨があって、筋肉があって、そこを脂肪がやわらかく包んでできあがる女性的なフォルムがきちんと伝わってくるんですよ。おそろしく官能的で、おいしそうで、しかもキュートな絵柄だと思いました。身体だけでなく唇までふっくらと立体で、あの柔らかくて甘い「女のコ同士のキス」の感覚がくっきりと表現されているところもナイス。
2. ステレオタイプの扱い方が巧み
さまざまな偏見や先入観を「なかったこと」にするのではなく、一度きちんと描いてから丁寧に解体していくところがすばらしかったです。セクシュアリティに関してだけでなく、八重が悩む「女らしさ」についてまで、ちとせの発言でがらりと意味づけが変わっていくところには目を見張らされました。また、百合漫画と現実の同性愛の違いについての
なんてところ(p. 65)も楽しかったですね。これはほんと、その通りだと思いますし。かぶってたり別腹だったり?
3. 恋の過程の丁寧な描き方
恋の予感から告白、やがて触れ合うようになってセックスに至るまでのプロセスが実にじっくりと丁寧に描かれていると思いました。2組のカップルのとまどいも喜びもラブラブ感も、どれをとっても初々しくて可愛らしくてたまらんです。
4. おそろしいまでの当事者感覚
読みながら「な……なんでここまでレヅ心がわかるんですか森島さん……」と呟いてしまうほど、レズビアンなわたくしにとってリアル感のある作品でした。いや、自分以外のレズビアンがどう感じたかは知りませんよ。でも、個人的にはおっそろしいまでに共感できる部分が多く、ツボを押されまくってもんどり打ちました。
たとえば、好きな女のコと触れ合うことで自分が女だって感じるっていうところ(pp. 49 - 50及びp. 84)とかね。ヘテロ的な価値観では「女と触れ合うのは男、よって女好きな女は男のようなメンタリティを持っているはずなのだー!」ってことになるんでしょうけど、実感としてはそれ、逆なんですよ。女のコとすればするほど、自分は女だっていうのがすとーんと納得できて、しかもそれがほわほわと嬉しい感じだったりするんですよ。このへんの機微はほんと、説明するのが難しいんですけど。
5. 雄弁な「手」の描写
要はセックスシーンについてなんですけど、百合エロにありがちな「ぼくがかんがえたれずびあんせっくす」的な変な描写――言い換えるなら、股間の摩擦にばかりこだわったヘテロ臭い描写――が一切ないんですよ! その代わりに力を込めて描かれるのは、女のコたちの肢体と、そして雄弁な「手」。奇しくもこれは、2008年10月4日の「みやきち日記」で紹介した、スージー・ブライトのこの意見にそぐうものではありませんか。
では、レズビアンの『性交』をどう仄めかしたらいいのだろうか?
私のアイデアは――キャシーの映画の名場面から盗み取ったのだが――私たちのは、ぴんと伸ばしたり引き締めたりしている女性の脚を映して見せ、それから、恋人の前腕が女性の腿の間にある場面を見せるというものだった。(引用者中略)
互いにいちゃつきあったり愛の行為をしている時は、いつでも女性の手をエロティックに見せるべきなのだ。
(スージー・ブライト. (2004). 『スージー・ブライトのレズビアン作法』. 第三書館. pp. 220 - 222.)
実際、『半熟女子』の数々の絡みのシークエンスは、スージー・ブライトが監修した映画『バウンド』のそれに勝るとも劣りません。どれも女のコ同士で触れる・触れられることの嬉しさと気持ちよさがきめ細やかに描かれた、すばらしいエロシーンでした。特に、する側の高揚と快楽がはっきり描かれているところがよかったです。ちなみにセックスの場面のみならず、毎回の扉絵で裸で触れ合う八重とちとせの「手」にも注目。どれも色っぽくて、かつ、可愛いですよー。
まとめ
雄弁な絵と丁寧な演出で、女のコ同士の恋の喜びをこれでもかとばかりに表現した快作だと思います。ほんっと、よかった。堪能した。この時代に生まれてこんなすげーもんが読めて幸せです!