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キュートな青春映画(レズビアンキャラあり)
1年間バルセロナに留学したフランス人大学生グザヴィエ(♂)が、国籍も性別もごちゃまぜな6人の学生達との同居生活を通じてひとまわり成長していく物語。厳密に言うとレズビアン映画というわけではないのですが、いい感じのレズビアンキャラが登場します。主人公グザヴィエの繊細さと柔軟さがよかったし、アイデンティティの破壊と再構築というテーマも面白かったです。
レズビアンキャラがいいですよ
同居学生のひとり、ベルギー人のイザベルがレズビアンです。美人でサバサバしていて、主人公とのやりとりがいちいち面白かったです。特に、主人公に女のコの扱いを教えるところが爆笑もの。「女同士だと器具を使うの?」なんていうおきまりの質問に笑ってみせて、「女の快楽が何かちっともわかっていないでしょ」と実地で女の愛撫の仕方を教え出すんですよこの人。しかも、グザヴィエをネコ役に回して。グザヴィエのケツは揉むは太腿は抱え上げるわ、もう、やりたい放題。楽しすぎ。
あと、イザベルがレズビアンだと知ったときの周囲の反応も面白いなあと。一瞬引く主人公、もっと引くイギリス人女性ウエンディなど、むき出しのホモフォビアとはまたちがった微妙な反応が返ってくるところがリアリスティックだと感じました。あ、でも全体的にはぜんぜんホモフォビックなお話じゃないんですよ。同性愛者だからって気にするのは変だ、という暗黙の了解は全員持ってて、その上での微妙な驚きやとまどいがていねいに描写されてるっていう意味です。そんなところもよかった。
グザヴィエの繊細さと柔軟さ
そもそもイザベルによる恋のレッスンでネコ側に回らされて「オレを女扱いするのか」とか怒り出したりしない柔軟性がいいし、彼女と別れて落ち込んだり、つい人妻に手を出しちゃったりという危なっかしさもキュートでした。人妻と言えば、その夫の硬直した「大人の男」ぶりが、グザヴィエの繊細さや青臭さと好対照をなしているところもうまいなと思いました。
異国でのすったもんだで一旦これまでの自分が破壊され、新たなアイデンティティーを獲得していくというのがこの映画のテーマですが、そうやって成長をとげてもこのみずみずしく柔らかな感性はそのままだというところもよかったです。アンヌ・ソフィーの夫のように傲慢な男になるでもなく、ビューロクラシーにそまって退屈な日常を送るでもない、別のかたちの「大人」が呈示される映画なんですよね、これは。
あともうひとつ言うと、日本のオタ向けコンテンツにあるような、「好きな女に性的に受け入れられさえすればこんな駄目な自分でも自信が持てる!」みたいな童貞ドリームの香り皆無なところもよかった。そもそもグザヴィエ、登場時から非童貞ですし。だいたい、1発や2発ヤッたぐらいで人生すべてバラ色になるんなら、人間、苦労しないよね。
そのほか
唯一気になったのが、イザベルによる「女の愛撫の仕方講習会」の一部が、ちみっと男に都合よすぎること。いや、イザベルの説明までは面白いし、一面の真理をついてもいると思うんです。こないだレビューした『野良女』(宮木あや子、光文社)の、
的な意味で。でも、その後グザヴィエが人妻相手にそれを不器用に実践するシークエンスが、ちょっとうまく行きすぎる気がしないでもありません。下手したらひっぱたかれるか、強姦未遂で訴えられるかするよな、あれ。あれでうまくいくのは、やっぱ映画だからだよなー(その後、調子に乗ったグザヴィエがイザベルからぴしゃりと叱られる場面があったりして、全体としてはバランスとれてると思いますけど)。くそたわけが! そんな鳥のエサみたいな性交で性欲が満たせるか!!
そこ以外はみんなよかったです。ごちゃごちゃしているのに軽やかで、青春映画なのに少しも説教臭くなくて、最後まで楽しく見られました。特にドラマティックな大事件は起こらないのに、「転」のところでうわっと画面に集まってくるエネルギーとかもよかった。
まとめ
まず青春映画として面白いです。イザベルがとてもいいので、いかしたレズビアンキャラが見たい方にもおすすめ。続編があるそうなので、そちらも見てみようと思っています。