石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

百合アンソロジー『百合少女』(コスミック出版)感想

百合少女 (キュンコミックス)

百合少女 (キュンコミックス)

手堅いと言えば手堅く、陳腐と言えば陳腐な百合アンソロ

キュンコミックスから新創刊された百合アンソロジーです。ひととおり読んでみたところ、

  • キャラクタは中高生主体
  • ストーリーは「本当は好き同士なふたりが、ささいな行き違いを経て和解し、両想いに」という少女漫画の(ちょっと古い)王道パターン主体

といった感じの一冊でした。手堅いと言えばとことん手堅い編集方針ですが、逆に陳腐と言えば陳腐。ちなみに裏表紙の、

秘めた想いをずっと言えない憧れの先輩。
汚れた気持ちを知られたくない幼いアナタ。
(引用者中略)
ねえ、女の子が女の子に恋をするっておかしいですか?

と書いてあるあたりで、このアンソロのだいたいの雰囲気は見てとれると思います。これが吉と出て2冊目が出るか、凶と出て売れ行き不振に終わるかは、現時点での百合好き層の好みの分布がどうあるかによって変わるでしょうね。

良かった作品について

個人的には上記の「中高生の話で、しかも古い少女漫画パターン」に当てはまる作品はどれも同工異曲に思えてしまい、今ひとつ楽しめませんでした。が、それ以外の作品にはとても好きなものもあります。たとえばこのへん。

1. 「ももいろ女子寮協奏曲(コンチェルト)」(りーるー)

女子大の第一女子寮(通称『御殿』)に住むお嬢様と、第二女子寮(通称『小屋』)住まいの貧乏奨学生の恋を描く4コマ漫画。これが面白くて面白くて! メインカップルの愛とドタバタもさることながら、お嬢様に横恋慕する「横峯さん」のけなげさとおバカさ、そして貧乏奨学生にちょっかいを出す「若宮さん」のヨコシマさがすばらしいです。特に若宮さん関係のネタはすごく好きだなあ。「排他的な一対一の関係こそが至上」みたいな凝り固まった価値観を笑い飛ばすしなやかさがあって、よかったです。あ、横峰さんの柿と猿のたとえも楽しかった。

2. 「お届け物です」(北条KOZ)

宅配便の女性セールスドライバーと、いつも荷物の受け渡しを担当しているOLさんの物語。甘やかな恋の予感ぐらいのところで終わる物静かなお話なのですが、貴重な大人同士のお話として楽しく読みました。恋のきっかけに猫が使われているところもよかった。

まとめ

無難といえば無難なアンソロなのですが、キャラの年齢はともかく、ストーリーにはもう少しバラエティがあってもよかったのではないかと思います。ただし、「百合好きはこういう古い少女漫画風の展開を好む人が多いのだ」という読みあっての戦略なのかもしれないし、ひょっとしたら作品の幅が非常に広い百合アンソロ『つぼみ』(芳文社)などとの差別化をはかってのことなのかもしれず、商売としてはこれはこれで正しいのかも。あと、ジャンルの多様化という面では、アンソロごとにさまざまな特色があった方が面白いので、そういう意味ではこの編集方針はアリかもしれません。

とりあえず2号目以降が無事出版されて「ももいろ女子寮協奏曲(コンチェルト)」が連載化されたりしたらすごく嬉しいんですが、さて、どう来るか。

おまけ

収録作と執筆陣は以下の通りです。

カバーイラスト
早瀬あきら
イラスト
甘味屋涼
「見つめていたい」
四位広猫
「タナカチハルのひそかな願望」
井上眞改
「小悪魔的コーフクのススメ」
日高ジョー
「スキスキス」
北尾タキ
「花筺(はながたみ)」
未幡
「迷子のたどりつくところ」
みとうかな
「お届け物です」
北条KOZ
「ももいろ女子寮協奏曲(コンチェルト)」
りーるー
息がとけるぐらい近くに
君川瑠衣
「マナとわっかの魔法使い」
三原ごりえ