- 作者: リカチ
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2009/11/18
- メディア: コミック
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女子中学生同士の繊細なラブストーリー
ふたりの女子中学生「広海(ひろみ)」と「樹里(じゅり)」の恋物語。面白かったです! ロミオとジュリエットや「王子様」というモチーフから、旧態依然としたヘテロ恋愛の真似っこ路線かと一瞬警戒したのですが、それはまったくの杞憂でした。ヘテロの真似どころか、思春期女子同士のセンシティヴな恋心をていねいに描き切った良作だと思います。甘酸っぱくて初々しくて、かつ苦みや痛みの効かせ方もよく、たのしく読めました。番外編「春を迎える頃」も「わかるわかる!」って感じで、とてもよかったです。
ヘテロの真似っこではありません
このお話の導入部は、王子様系ボーイッシュ少女の広海が、エキセントリックな転校生・樹里から
と言われ(p. 13)、そのままなしくずしに仲良くなっていくというもの。ここだけ読むと「えー、また『女同士による男女恋愛ロールプレイ』パターンの百合もの?」と一抹の不安を覚えてしまうのですが、物語はそこから意外な方向に進んでいきます。ロミオって呼んでいい?
(引用者中略)
髪型も―…ほら―ロミオっぽいし あたしが“樹里”だから――ジュリエット
まず、広海本人がぜんぜん王子様気取りでも、ましてや男気取りでもないところがポイント高いです。広海は単なるセンシティヴないち思春期女子であって、別に男役を演じようと思ったりしていないんですね。
さらに、樹里の側でも広海にまったく男性性を求めていないところが面白い。ロミオ呼びこそしていても、樹里にとって広海は可愛い女のコにすぎず、むしろ樹里によって広海の女性性が再発見されていくという物語構造がユニークでした。あと、なんといっても最終回の樹里の姿と言動に注目。あれは鮮やかでしたねー。あくまで女のコと女のコとの対等な恋物語であることを指し示す、心憎い演出だったと思います。
甘酸っぱさと初々しさについて
広海のみずみずしい心のふるえがとてもよかったです。3回あるキスシーンのそれぞれに対するリアクションとか、触れたり触れられたりすることに対するとまどいとほのかな興奮とか。そもそも樹里と親しくなる前からして、体育でのペアストレッチで樹里の体に触れて
と微妙にドキドキしたりしている(p. 11)ところもたいそう可愛かったです。軽っ…華奢だな〜壊れそう…
あー ちゃんと体温あるんだ… 人形みたいなのに
髪 首にかかる…なんか…
苦みや痛みの効かせ方について
単なるあまあま系のストーリーではなく、「レズキモイ」みたいな同性愛への偏見もきっちりと描かれる作品ではありますが、その偏見の扱い方が非常にうまいなと思いました。ポイントは、
- メインカップルにまで偏見を共有させないところ
- 広海の親友「真希」の使い方
ですね。特に後者に関しては、第7話「空の行方」での展開に目を見張りました。ここに至って初めて気づいたんですが、「真希」という名前はマキューシオから来てるんですねたぶん。しかも、シェイクスピア版ではなくバズ・ラーマン版『ロミオ+ジュリエット』のニュアンスがちょっぴり入っているはず。そうか、そうだったのか。そう思って第1話から読み返すと、切なくてまたいいんですよこれが。
また、第8話から第9話(最終話)までに4年間という時間の隔たりをつけてみせたところもすばらしいと思います。第8話のラストで物語を終わらせず、あえて胸の痛みをチクリときかせてからあの結末に持って行くというメリハリのつけ方がステキです。この構成自体が「百合恋愛は成長過程における一時的な感情」みたいなアホな言説へのアンチテーゼになっているところもよかった。
番外編「春を迎える頃」について
「ゲイダー恐るべし」とウケました。一種の伏線回収になっているところが楽しいし、淡く繊細なこのラブストーリーに同性愛というコードをさりげなく埋め込んでみせているところもナイス。
まとめ
帯の「私は貴女のジュリエット…貴女は私のロミオ…」なんて言葉で躊躇してる場合じゃありません。みょーなヘテロノーマティヴィティー(異性愛規範性)とは無縁な、繊細かつかわいらしい百合ラブストーリーですよ、これ。甘さだけではなく、痛みや苦みも絶妙の配分できかせてあるところがまた心憎いです。思春期女子同士のキュートな初恋ものがツボな方に、すごくおすすめ。