石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『青い花(8)』(志村貴子、太田出版)感想

青い花(8)(完) (Fx COMICS)

青い花(8)(完) (Fx COMICS)

実る恋あり、実らぬ恋あり。納得の最終巻

「なるほど、こう来たか!」と驚きつつも納得しまくった最終巻でした。いやー、よかった。これまで『青い花』を読みながら「ここがいいなあ」と思った部分にはターボがかかっているし、予想外のオチも鮮やかで、ドキドキしたりニヤニヤしたり大変でした。キャラの皆さんの実る恋も実らぬ恋もみんな良く、百合だとかヘテロだとかいう枠を越えて恋なるものの本質をつく1冊だと思います。

こんなところに激しくターボが

あたしはかつて『青い花(5)』の感想で、この作品は、

  • 高校を出た後にもずっと続く生活があり、
  • フィクションやファンタジーではなく、
  • 悲劇のヒロインごっこでも、性欲のない「清い」関係でもない、

という「ごくごくあたりまえの『女のコ同士の恋』」を描くものだと述べました。最終巻でもこの路線はまったく崩れないばかりか、さらに加速がかかってます。とくに唸らされたのが、「高校を出た後にもずっと続く生活」の描き方。制服姿のメインカプの未来をほんのり暗示して終わるぐらいのリリカルな結末になるのかと思っていたら、まったく予想外の思い切ったオチになっていて、しかもそれがすばらしかったので、あたしはうれしい。

で、今「予想外」とあたしは書きましたが、よく見るとそこに至る動線は実に巧みに用意されてるんですよ。たとえばそれは、7巻以来何度もふみの心中で繰り返される脚本のことば。それと呼応する、1巻以来のあの名台詞。涙。ふみがあーちゃんの攣った足をケアしてあげるコマ(p. 137)のような、なんでもない(はずの)場面のエロティシズム。これらすべてがつながって、物語はラストの見開きページまで一気に加速していくんです。うまいなあもう。

実る恋あり、実らぬ恋あり

この期に及んで新キャラまで登場し、さまざまな人のさまざまな恋が浮き彫りにされていきます。それらすべてに通底しているのが、同性同士だろうと異性同士だろうと恋とは基本ままならぬもので、本人の資質や努力とは無関係であること、そしてひとつの恋が成就しようと挫折しようと、人生にはまだその先があるということ。これって真実だとあたしは思うんです。

脇キャラの中では、新聞部長さんの恋の部分が非常にユニークだと思いました。最近読んだマルチナ・ナブラチロワの自伝『ナブラチロワ―テニスコートがわたしの祖国』(サンケイ出版)の中で、自分の性的指向が世に知られた頃のことについてマルチナがこんな風に書いていた(p. 280)のを思い出します。

いちばん攻撃的な文章を書いたのは、自分が同性愛なのに、それをおおやけにしたくない記者たちでした。

同じやん。『青い花』の新聞部長さんと同じやん。この漫画って基本的に悪役がいない話だと思うんですが、新聞部長さんも例外ではなく、要するに実らぬ恋に苦しんでいるだけだったというわけ。リアルな設定だし、お話をアホくさい勧善懲悪にもっていかず、「一皮むけばみんな同じ穴の狢」と示してくれるところがとても好きです。

まとめ

文句なしの最終巻でした。期待を裏切らないどころか、期待以上のみごとな結末。これだけ女の子たちのキラキラしたかわいさを描きつつ、最後の最後まで百合を「ファンタジー」にはしないという手腕にただ拍手です。しばらく1巻から通して読み返して余韻にひたりたいと思います。