石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『青い花(7)』(志村貴子、太田出版)感想

青い花(7) (エフコミック) (Fx COMICS)

青い花(7) (エフコミック) (Fx COMICS)

ぞくりとさせる残酷さあり

いよいよ大詰め、第7巻。ぞくりとするような残酷な場面があり、「さすがは『青い花』」と感じ入りました。女子高生たちのキラキラしたかわいさを追求しつつも、決して甘いだけのお話にはならないんですよね。それだけに、キス(や、それ以上のこと)の場面の初々しさと切なさが余計に胸にしみます。井汲京子とその母を始めとして脇キャラのエピソードがみっちり積み上げられていくところも、作品世界に現実味を与えていてよかったです。

さすがは『青い花』

いつかはこういう展開が来るとは思ってたんですが、ホントに容赦ないですね今回。具体的にはpp. 87-89でのあーちゃんの気づきと自問自答の場面とか。はたまた、p. 95とp. 96のふみとあーちゃんの対比とか。ふみの立場に立ってみれば、千津に捨てられ杉本恭己に捨てられ、三度目の正直でこのタイトロープ展開なわけで、心中で何度もリフレインされる脚本のフレーズが切ないったらありゃしません。

キスとそれ以上のこと

性愛をきちんと描きつつ、「ドキドキな片想い→お互い告白→両想い→セックスしてハッピー♥」という単純すぎる工程をたどらないところが斬新だと思いました。もっと言ってしまえば、斬新というより、リアル。山田詠美がかつて書いたように、「始まりは、いつも肉体である」のですから。それを百合漫画という世界でこうまで具現化してみせた以上、今後「なりゆきは心である」というところまで描ききってくれるとうれしいなあ。

脇キャラたちのエピソード

第39~40話とまるまる3話使って、京子とその母親の話がみっちりと描かれています。言ってしまえばヘテロ恋愛の話なのですが、以前ロッキングオン・ジャパンのインタビューで志村貴子さんが語っておられた通り、「女の子の話だけに特化しちゃうと、結局女の子同士の恋愛がフィクションというか、ファンタジーというか、そういうふうになっちゃいそう」なので、こういう部分は重要かと。さらに、今回の井汲母娘の話は結局「捨てられた/さみしい人」を描くものなので、今ふみが置かれかかっている崖っぷち状態をうっすらと暗示する役割をも果たしており、そんなところもおもしろかったです。

メインカップル以外のレズビアンキャラの動向が出てくるところもよかった。井汲母娘のエピソードもふくめて、「人間、『異性同士だから』『同性同士だから』という理由だけで単純にうまくいったりいかなかったりするものではない」「同性同士でも幸せになれるし、コケても敗者復活もある」と見てとれるようになってます。

まとめ

初々しいキスもセックスも出てくるのに、ズキズキするような残酷さも忘れないという、たいへんな1冊でした。もうこれは「かわいらしさと現実味の奇跡のコラボ」と呼んでいいかと。次の巻も楽しみ。