石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

スーザン・サランドン、教師のアンチゲイ発言を批判した甥を支持

ブロマイド写真★スーザン・サランドン&ジーナ・デイヴィス/『テルマ&ルイーズ』/写真を撮る2人

米女優スーザン・サランドンが、甥っ子でゲイのScott Lyonsさんが母校の教師のホモフォビックな発言に反論するメッセージをFacebookで発信したことを支持し、「誇りに思う」と発言しています。

詳細は以下。

Susan Sarandon Plays Wingman For Her Gay Nephew - The New Civil Rights Movement

ことのおこりは、共和党の大統領候補と目されるベン・カーソン(Ben Carson)氏の問題発言。「刑務所に入ったときには異性愛者だった多くの人が、ゲイになって出てくる」のだから同性愛は生まれつきではなく自分の選択によるものだと言ったんですね、彼は。

この「自分の選択によるもの」という発言、キリスト教圏では平均的な日本人が想像するよりよっぽど重い意味を持っています。というのは、キリスト教を基盤とする考え方では、同性愛のとらえ方はだいたい以下のように変化してきている*1からです。

  1. 神を根拠として同性愛を犯罪化する(~19世紀末)
    • 「同性愛は神ヘの冒涜だから取り締まるべき」
  2. 神を根拠として同性愛を病理化し、脱犯罪化をはかる(19世紀末~)
    • 「同性愛は先天的な性質(または病気)で、神から授かったものなのだから犯罪とすべきではない」
  3. 神を根拠として同性愛を先天的なものとし、かつ脱病理化をはかる(20世紀~)
    • 「同性愛は病気ではない、しかし神から授かった生まれつきのものだ」

キリスト教の文化圏では、同性愛を神との関係でとらえないわけにはいきません。そこで、同性愛ははたして「先天的(神から授かったもの)」なのか、「自分で選んだこと(神の意に反して勝手にやったこと)」なのかが非常に大きな意味を持ってきます。現在のゲイ権利運動で広く支持されているのは上記3の考え方で、だからこそ"Born This Way"のような歌も出てくるわけ。カーソン氏のような「自分で選んだことだ」という意見は上記1に該当し、これは西欧社会で同性愛を弾圧する根拠としてさんざん使われた(そして今もキリスト教原理主義者などが好んで使う)言い回しなので、ホモフォビックであるとして非常に警戒されます。

で、このカーソン氏の発言を、ゲイ活動家のダン・サヴェイジ(Dan Savage)氏が以下のように痛烈に批判したわけ。

同性愛が選択の結果であるのなら、そう証明してみせろ。選んでみせろ。ゲイであることを自分で選んでみせろ。どのようにすればそうなるのかアメリカに示せ。ベン、人間がどのようにゲイであることを選択するのか見せてくれよ。時間と場所を指定してくれればおれのチンコとカメラ班を提供するから、そこでフェラチオすれば論争に勝てるぞ。

If being gay is a choice, prove it. Choose it. Choose to be gay yourself. Show America how that's done, Ben, show us how a man can choose to be gay. Suck my dick. Name the time and the place and I'll bring my dick and a camera crew and you can suck me off and win the argument.

ことばは汚いけど、一理あるわねえ。

この批判に横から噛みついたのが、スーザン・サランドンの甥Scott Lyonsさんがかつて習った高校の教師、Patricia Jannuzzi先生です。Jannuzzi先生はなぜかサヴェイジ氏の上記発言を「ゲイのライフスタイルを選ばせようとしている」と解釈したらしく、以下のような意見をネットで披露。

長いので要約すると「ほら、これがゲイのアジェンダよ……(中略)平等な権利を手に入れるまでは『ボーン・ディス・ウェイ』とか言ってたくせに、権利が手に入ったら、だれでもゲイやレズビアンのライフスタイルを選べて当然だと主張するのよ(中略)……子供たちのため、そして人類のためには、人間には父親と母親がいる健康的な家庭が必要です!!!!」。

誰も「選べて当然」なんて言ってないのに、読解力は大丈夫ですか先生。反語って知ってますか先生。なお、このJannuzzi先生の担当教科は「宗教」だそうで。なるほど。

上記発言を受け、Scott LyonsさんがFacebookで、「Jannuzzi先生に以下の文面の手紙を送った」と発表しました。冒頭だけ訳してみます。

Jannuzzi先生へ。同性愛は生まれつきのものではなく、学習されたものであるという先生の最近の投稿を今日知りました。わたしがイマキュラータ・ハイスクールにいた頃、先生のクラスと授業は愛と受容に重きを置いていたと思います。先生が最近ソーシャルメディアで示した態度には、怒りと失望を禁じ得ません。自分は、記憶にある限りずっと以前から同性愛者でした。それは小さい頃からの生来の性質で、自分の人生ではずっと自然なことでした。

Mrs. Jannuzzi -- Your recent post about homosexuality being learned rather than something you are born with was brought to my attention today. I found your classes and teaching during my time at IHS to be focused on love and acceptance. I can't help but be offended and disappointed by the position you have taken via social media recently. I can tell you that I am, and for as long as I can remember, have been a homosexual, it has been my nature from an early age and something that has been natural to me in my life.

このポストにはかわいい赤ちゃんの写真が添付されています。最初、 Lyonsさんの赤ちゃん時代の写真なのかと思ったら、違いました。手紙の続きの部分によると、Lyonsさんは現在男性パートナーと結婚して子供を育てているのだそうです。写真の赤ちゃんは、その子だったの。

ここでついにスーザン・サランドンが言及。事情を説明して「甥を誇りに思う」とし、さらにこんな辛辣な感想を添えています。

ハイスクール時代はただでさえ大変なのに……それを余計につらいものにしてしまう教師なんて、生徒には必要ないわ。

High school is a tough time anyway... students don't need teachers making it even more difficult.

いいぞいいぞ、スーザン!!

一介の非キリスト者としては、「後天的なものでも別にええやん」と思わないでもないのですが、ひとたび歴史を知ってしまうと、ベン・カーソン氏のような発言はやっぱり見過ごせません。あれは一神教の世界で人を刑務所や精神病院に叩き込み、効果のない「治療」で痛めつけるのに使われてきた言い回しですから。また、Jannuzzi先生のような教壇に立つ人があのような妄想にかられているのも、子供たちにとってはいい迷惑だと思います。この学校にだって同性愛者の子がいるはずだし、今どき同性カップルの親を持つ子だって少なくないのに、あれはないよ。

なおNCRMによると、Jannuzzi先生の発言は、今ではネットから下げられているのだそうです。しかしスクリーンショットを彼女のまた別の教え子グレッグ・ベネット(Greg Bennet)さんがTwitterに載せたため、今でも全文読むことができます。教師の偏見が教室という密室にとどめられず、白日のもとに公開されて外部からの批判にさらされるだけ、今はまだ少しはましな時代なのかもしれませんね。