フィリピンのオロンガポ市で2014年にフィリピン人トランスジェンダー女性を殺害した容疑に問われていた米海兵隊員ジョセフ・スコット・ペンバートン(Joseph Scott Pemberton)に対し、裁判所が2015年12月1日、有罪判決を下しました。
詳細は以下。
トランスジェンダー殺害で米海兵隊員に有罪判決 フィリピン 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
以下、上記リンク先から引用。
ペンバートン被告は2014年10月、フィリピン北部の港湾都市オロンガポ(Olongapo)付近で行われた米比合同軍事演習の後、バーで知り合ったトランスジェンダーのフィリピン人女性、ジェニファー・ロード(Jennifer Laude)さんをモーテルで殺害した。
PinkNewsによればペンバートンはロードさんの遺族への慰謝料8万5千ドルの支払いと、6年から12年の懲役刑を申し渡されたとのこと。ロードさんの家族の弁護士によると、被告はロードさんの首を絞めたのは「正当防衛だった」と主張していたそうです。
さて、ではここで被告と被害者の写真を見てみましょう。
A year after Jennifer's death, Laude family still cries for Justice http://t.co/JV8FiuLUs4 pic.twitter.com/CuyZhjzVxz
— CNN Philippines (@cnnphilippines) 2015, 10月 11
Newsweekによればペンバートンは20歳。日々厳しいトレーニングで鍛え抜かれているはずの20歳の海兵隊員が、この写真右のフィリピン人女性の首を絞めて死に至らせることが「正当防衛」?
次に、被告のこれまでの証言を見てみましょう。
VIDEO: Pemberton, inamin na sinakal niya si Jennifer Laude http://t.co/Tt5ZXw8enh pic.twitter.com/Nuy2Ki8GVh
— News To Go (@newstogoGNTV) 2015, 8月 25
以下、訳です。
"「わたしは彼女を触りました……何か変なものが手に触れました。そこにないはずのものです。すると、彼女はパッと体を離しました。わたしは彼女に、離れろと言いました。事態の全貌がわかりました。自分の上に乗っているのは男だとわかりました。それでわたしは、彼女を押しのけました」。
"I reached for her...Felt something weird. Something that wasn't supposed to be there. Then she jerked away. I told her to get off me. I connected the dots. I figured that it was a dude on top of me. So I pushed her to get off me."
BuzzFeedにもう少し詳しい報告があり、それによると被告はロードさんに男性器があったという理由で「レイプされたかのような気持ちになった」「強い嫌悪感を抱き、侵害されたと感じて怒りを覚えた」と証言したとのこと。何がレイプだ、典型的な「トランス・パニック・ディフェンス」ですよ、これ!!
パニック・ディフェンスとは、ゲイやトランスジェンダーの人びとを殺害した犯人が罪を軽くするために裁判で持ち出す、「嫌悪感のあまりパニックに陥った上での犯行であり、心神喪失状態だったのだから悪くない(そもそもこちらに嫌悪感を抱かせた被害者が悪い)」という論法のこと。マシュー・シェパード事件でも使われました。この「パニック」を立証するに足る心理学的エビデンスはほとんどないと言われており、カリフォルニア州の法廷ではゲイ/トランス・パニックを弁護に使うことは「全く正当化できない」として禁止されています。ニュージャージー州でも2014年12月、ゲイ・パニック・ディフェンスを禁止する法案が議会に提出されました。
その。パニック・ディフェンスを。今さらいけしゃあしゃあと使うとは。
嫌悪感というのは個人の内面の問題であり、他者に危害を加えたり、不平等な扱いをしたり、ましてや命を奪ったりすることの言い訳にはなりません。そのことがわかっていない人が多すぎる。フィリピンの裁判所が被告を無罪としなかったことには少しだけほっとしましたが、そもそも事件の根底にあったと思われるマチズモやホモフォビア、トランスフォビアがなくならないかぎり、こうした事件は起こり続けるだろうとも思います。
以下、BuzzFeedより、判決に対するロードさんの遺族の声。
ロードの母、ジュリア・カビランも、判決への不満を示した。「ジェニファーの死に方を思うと、6年から12年の刑では納得できません」と彼女は裁判所のロビーで話した。「不満ではありますが、大事なのは彼が刑務所に行くこと、わたしたちの努力が無駄ではなかったということです」。
ロードの姉妹、ミシェルが付け加えた。「(有罪判決は)嬉しいのですが、きょうだいがもう帰って来ないのは今もなお本当につらいです」。
Laude’s mother Julita Cabilan also expressed dissatisfaction over the decision. “I’m not satisfied with 6 to 12 years given how Jennifer died,” she said in the courthouse lobby. “I am not content, but what’s important is that he will be jailed, that our efforts were not in vain.”
Laude’s sister Michelle added: ‘We’re happy but it still really hurts because our sibling is still dead.”