石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

新旧レズビアン価値観問題―ドラマ『スーパーガール』3x04感想(ネタバレ)

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サンバース破局へのリーチ回

スーパ―ガールを崇めるカルト宗教が問題を起こす回。それはさておき、アレックス(カイラー・リー)とマギー(フロリアナ・リマ)はいよいよ破局に向かってまっしぐら。アレックスはヘテロ的な価値観と親和性が高い人ですが、一周回ってそれが新しいとも言え、マギーとの差異が興味深かったです。

一周回ってるアレックス

アレックスは子供が欲しい人で、マギーは子供を持ちたくない人。今回アレックスは、母親になりたいという昔からの夢がどうしてもあきらめきれないと悟り、涙ながらに義妹のカーラ/スーパーガール(メリッサ・ブノワ)に気持ちを打ち明けます。そこの長台詞が、「ヘテロ女性の言ってることだとしたら古臭いけど、レズビアンの発言としては新しい」というちょっとおもしろいものになっていると思いました。こういうことを言うんです、アレックスは。

「母さんがわたしたちにしてくれたことを全部経験したいの。娘をキャンプに連れて行って、星座を見せてやりたい。文字の読み方を教えてやりたい、それにパンチの打ち方も、古臭いバレンタインの贈り物のつくり方も。娘が悪い夢を見てうなされたら抱っこしてやって、あなたがいるからこの世界はよりよい場所になったんだよと教えてやりたい」

I want all the experiences that Mom had with us. You know, I want take my kid camping and I wanna show her the constellations. I want to teach her how to read, how to throw a punch, and how to make cheesy valentines. And I want to hold her when she has a bad dream, and I wanna tell her that the world's a better place because she's in it.

幼少時にこんなドラマなんてひとつもなかったオールドタイプのレズビアンである自分は、こういう願望は一度たりとも抱いたことがありません。そもそも自分が子を持つという選択肢自体が存在しませんでしたし。しかし考えてみれば、アレックスのように2016年に初めて「自分はレズビアンだ」と気づいた人の場合、選択肢の幅が最初からそれはそれは違うんですね。現在の米国では同性カップルはふたりとも子の出生証明書に親として名前を載せられますし、精子バンクもあれば、ご家庭用の人工授精キットをAmazonで買うこともできます。ロージー・オドネルやジリアン・マイケルズなど子供がいるレズビアンの有名人も多く、米国コミュニティ調査(American Community Survey: ACS)では、2011年時点で同国の女性同士のカップル世帯の22%に子供がいることがわかっています。子供のいるレズビアン・ファミリーは、もはやそれほど珍しいものではなくなってきているんです。そういう意味で、アレックスのこの願望は非常に現代的なものだと自分は感じました。

この長台詞の中にバレンタインの話をちらりと混ぜているのもうまいところ。シーズン2で出てきた、バレンタインというイベント自体に抵抗感があるマギーと、たとえ陳腐でもふたりでバレンタインを祝いたいアレックスとの対比は、結局この「旧タイプのレズビアンと新タイプのレズビアンの感覚の違い」で説明がつくものだったというわけ。マギーさん寄りの比較的ハードモードなレズビアン人生を送ってきた自分としては、マギーのヘテロカップル中心のイベントを厭う気持ちや、子供のいる人生を想像できない気持ちの方により共感してしまうため、今回のアレックスの心情の吐露にはただ「異質で、新しくて、まぶしいもの」を見る思いでした。それと同時に、このふたりがうまくいかないであろうということもするりと納得できてしまいました。サンバース(アレックスとマギーのシップネーム)が別れるの、嫌だったんだけどなー。

クールなおばさんのみなさん

今回他におもしろかったのは、アレックスの子育て願望を肯定的に描きつつ、子供を持たない人生を選ぶ女性陣をも決して否定しないという描き方がされていたことです。女子会中にサマンサ(オデット・アナブル)から子供について話を振られたマギーが笑って、

「(母親にはならず)かっこいいおばさんになるつもり」

"We'll just be a cool aunts."

と言う場面で、レナ・ルーサー(ケイティ・マクグラス)もすかさず笑顔で

「わたしもかっこいいおばさんリストに入れといて」

"Put me down for another cool aunt."

と言うところがその好例。ここで別にレズビアンではないレナをも「かっこいいおばさん」志望者にしたことで、

  • 母親になるかならないかは性的指向で決まるわけではなく、あくまで本人が自分の意志で決めることである
  • 「かっこいいおばさん」人生も楽しいぞ

ということがうまく示されていたと思います。この後一行が、「かっこいいおばさん(ここで言う"aunt"は、親戚だけでなく友人の子供などの年少者から親しみをこめて呼ばれる『小母さん』全般を指す語です)」一同としてサマンサの娘の学芸会を見に行く場面なんかもなかなかよかった。ただアレックスだけは上記の両方のシークエンスで終始複雑な顔をしていて気の毒でしたが、これはバンドの解散で言うところの方向性の違いというやつなので、仕方がないですね。アレックスもクールなおばさん志望タイプだったらよかったのにね。

まとめ

サンバースの別れはいよいよ確定となってきましたが、この路線で終わるのならまあ納得かな。子供についての考え方が噛み合わないまま無理に関係を続けても、『グレイズ・アナトミー』のカリーとアリゾナみたいな泥沼にはまるだけでしょうし、うまい手を考えたよね製作陣は。あとはもう、どちらも悪者にせず、ましてやどちらも殺さず、サンバースの有終の美を飾ってくれるよう祈るのみです。