石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

だんだん不吉な不調和が―ドラマ『スーパーガール』3x03感想(微妙にネタバレ)

Supergirl Kara Zor-El Poster (61cm x 91,5cm)

いろいろ悲しい回でした

マギー(フロリアナ・リマ)とジョン(デイヴィッド・ヘアウッド)の父親が登場し、それぞれの親子関係が描かれる回。マギー父のホモフォビアにもう一歩深く踏み込むプロットがリアルでよかった一方、台詞にはややつじつまが合わない部分も。サンバースは粛々と終わりに近づきつつあり、悲しさもひとしお。

ダブル・マイノリティの問題

今回のエピソードでは、マギーとアレックス(カイラー・リー)のレズビアンカップル、通称サンバースのシャワー(結婚を控えた女性に贈り物をするパーティー)に招待されるというかたちで、マギーの父親オスカー・ロダス(カルロス・バーナード)が初登場します。オスカーはかつて、まだ14歳だったマギーをレズビアンだからという理由で家から追い出した男。このオスカーとマギーのやりとりで非常によかったのが、ふたりの断絶の背後にはホモフォビアだけでなく、ダブル・マイノリティの問題があるのだと示されていたところでした。

性的マイノリティの子供が親に捨てられるというのは、人種を問わずよくあることです。白人(コーケイジャン)であっても、ゲイやレズビアンであるがゆえに家を追い出されてホームレスになる子はたくさんいます。ここで「そんなの日本に住んでる日本人には関係ない」と考えるのは大間違い、だってあたしの知人だけでも「15歳で親と絶縁して自活するよりほかなかった」という性的少数者は複数いますからね。しかしながらマギー父の場合、(1)メキシコ人として幼少時から米国でめちゃめちゃに虐め抜かれてきた経験がまずあり、(2)我が子は差別されないようにと必死で努力してきたのに、(3)娘がわざわざ同性に恋をして、憎悪の標的たる生き方を選んだ(と彼の目には映った)……という3ステップで心折れたという経緯があり、単純なホモフォビアだけの問題ではないことが如実にわかるようになっているんでした。それがもっとも端的に示されているマギーパパの台詞がこちら。

あいつらが唯一メキシコ人より憎んでいるのはホモセクシュアルだ。世界は変わってなんかいないんだよ。

The only thing they hate more than a Mexicano is a homosexual. The world is not different, my dear.

この血を吐くような台詞で、「ゲイ」でも「レズビアン」でもなく「ホモセクシュアル("homosexual")」という現代米語ではネガティブなニュアンスのある語を使わせるあたりはさすがよね。それから、米社会で同性愛者がヒスパニックより嫌われているグループだというのはまんざら間違いでもないんです(『唯一の』とまで言い切るのはちょっと語弊があるけど)。2009年のピュー・リサーチ・センターの調査では、米国人はいくつかのマイノリティの中で同性愛者がもっとも差別されていると答えています。また、ギャラップの2016年の調査では、大統領候補が同性愛者だったら投票しないと答えた人の割合は、ヒスパニックだったら投票しないと答えた人の割合を上回っていました。そんなわけでオスカーのこの叫びには否定しきれない真実があるし、マギーがどう反論しても、彼の中にまだいる小さなメキシコ人少年の怒りと恐怖をなくすことは(少なくとも今は)困難なのだということもよく伝わってきます。そしてもちろん、オスカーがマギーのことを深く愛していて、それゆえに彼女が自分がかつて受けたような憎悪と排除の対象になりうることが耐えられないのだということも。

以前から、マギー・ソーヤーをラテン系という設定にしたのはトークニズム(差別してませんよと示すためだけにマイノリティを配置すること)だという批判はあったんだけど、この回を見てしまうと「いやむしろその設定を使ってやりたいことがあったんじゃない?」と思えてきます。すごいな、ファミリー向けのSFアクション番組で、ここまでやるのね米国は。

ただちょっとひっかかったのが、オスカーがメキシコ人差別への怒りを表現する場面で、あからさまにドナルド・トランプのものだとわかる主張や政策を批判していたこと。『スーパーガール』の世界では大統領は女性のエイリアンで、国境に壁を建てようとしたりしてもいないので、ここでオスカーの口から直接的にトランプ批判をさせるのは理屈が合わないと思いました。そこはちょっと残念。

(サンバースにとって)残るはあと2話

フロリアナ・リマの出演はS3E5までらしいので、サンバースのロマンスはもはや風前の灯。ラブラブの殺し文句もキスも出てくる一方、前回(S3E2)で出てきた伏線が不吉に強化されていて、たぶんこれが元でふたりは別れるのであろうという雰囲気に満ち満ちています。

マギーとアレックスの間の齟齬は現実でもすごくよくあるものなんですが、下手をするとこの先アレックスがただの「幸せな家庭で育ったがゆえに脳みそがお花畑で、良かれと思って大惨事を引き起こす人」にされてしまいそうで不安です。サンバースが別れるのは仕方がないとしても、あの辣腕エージェントのアレックスをそんな阿呆にしてしまうことだけはやめてほしいんだけどなあ。

どうせならそこからもうひとひねりして、「ベイビー・ダイク(自分が同性愛者だと気づいてカミングアウトしたばかりの新米レズビアン)と百戦錬磨のレズビアンが付き合うことは難しい」という人生の真実を描く方向にもっていってくれれば、拍手喝采するんですけどね。マギーぐらいに場数を踏んでいる人ならUnsolicitedProjectの動画で説明されているところの「ベイビー・ダイクは仔犬みたいに可愛いけど、何をやらかすかわからないから訓練済の成犬のほうがいい(要約)」という考え方はすごく似つかわしいし、落としどころとして悪くなさそうな気がします。無理かしら、そこまで突っ込んで描くのは。

まとめ

マギーの父子関係もサンバースのロマンスも、「誰も悪くはないのにこうなってしまう」というやるせなさに満ち溢れていて、見ていてつらい回でした。頭の中で中島みゆきが「悲しいことはいつもある」を歌い始めちゃって、いっかな止まりません。