石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

ケヴィン・スペイシーが14歳少年への性暴力で告発され、「ゲイとして生きる」と言い出す。各方面から非難ごうごう(追記あり)

ケヴィン・スペイシー (アメリカン・ビューティー 等) 直筆サイン入り写真

『RENT』のアンソニー・ラップ(Anthony Rapp)が14歳のときケヴィン・スペイシー(Kevin Spacey)から性暴力を受けたと公表。スペイシーは謝罪文で「覚えていない」「酔っていた」「もうゲイとして生きることを選ぶ」などと書き、各方面から怒られまくっています。

詳細は以下。

アンソニー・ラップは1971年生まれの米俳優で、事件が起こったのは1986年。当時アンソニーは14歳で、ケヴィンは26歳でした。BuzzFeedのインタビューでアンソニー本人が語ったところによると、その日ケヴィン・スペイシー宅で知らない大人ばかりのパーティーに参加していたアンソニーが退屈し、寝室でテレビを見ていたところ、酔っぱらったケヴィンが中に入ってきたのだそうです。ケヴィンは「花嫁を抱き上げる花婿のように」アンソニーを抱え上げてベッドに運び、上にのしかかってきたとのこと。

「彼はぼくを誘惑しようとしていました」とラップは言った。「当時のぼくがこの単語を使うかどうかはわかりませんが、彼がぼくと性的な意味で近づきになろうとしているのだと気づいていました」

“He was trying to seduce me,” Rapp said. “I don't know if I would have used that language. But I was aware that he was trying to get with me sexually.”

結局アンソニーはもがいてケヴィンを押しのけて逃げたのだそうです。その後弁護士に相談もしたものの、訴えるだけの価値はないと言われて訴訟は起こさずじまい。しかし、ハーヴェイ・ワインスタインの一連の性的暴行疑惑を機に多くの被害者がセクハラ/性暴力加害者を告発し始めたこともあり、「こういうことに注意が払われず、忘れ去られてしまったら、今後も続いてしまう」と考えて今回告発に踏み切ったとのこと。

これに対してケヴィン・スペイシーがTwitterにアップロードした「謝罪」がこちら。

目が腐りそうなのでとても全文は訳していられないわ。特にひどいところだけ抜粋して箇条書きにすると、こんな感じです。

  • 正直言ってその接触についてはおぼえていません。30年前のことだったようですし。
  • もし自分が本当に彼が言ったような行動をとったのだとしたら、不適切な、泥酔した上でのふるまいだったであろうことについて、彼に心から謝罪せねばなりません。
  • この話のおかげで、自分の人生に関する他のことについて話す勇気がもらえました。(引用者注:ここにケヴィン・スペイシーの性的指向についての話が長々と入ってますが、割愛)わたしは今、ゲイ男性として生きることを選びます。

何年前のことだろうと子供と性交渉を持とうとしたなら虐待で犯罪だし、たとえ記憶がなくてもやらかしたことは消えないし、泥酔していたことも言い訳にはならないし(酔っ払って車で人をはねたらシラフではねたときより罪が重くなるのに、性虐待なら酒のせいにして免罪できると考えるのは変)、そもそも「謝罪」のはずの文章を半分以上てめえのカミングアウトに使うって一体どういうことなの。性的指向は言い訳にはならないよ。仮に26歳の男が14歳の少女に性暴力をはたらいたことを咎められて「僕ヘテロです」と発言したところで「だから何」としかならないでしょ、それと同じだよ。まさか新聞の見出しを軒並み「ケヴィン・スペイシーがカミングアウト!」にしてごまかせるとでも思ったの?

Varietyの記事が、スペイシーのこの声明は各方面から激しく批判されていると報じています。同記事内で紹介されているツイートを、以下にいくつか訳してみます。

LGBTユースの自殺防止プロジェクト「It Gets Better」創設者、ダン・サヴェジ(Dan Savage)。「ケヴィン・スペイシーの声明、これはない。どれだけ飲もうと、またはクロゼットにいようと、14歳の子供を襲うことの言い訳にはならない」。

オープンリー・レズビアンのコメディアン、キャメロン・エスポシート(Cameron Esposito)。「ほんっとにはっきりさせておきたいんだけど、同性愛者であることは、未成年を狙うことと何ひとつ関係ないんだからね」。

ジャーナリストのマーク・ハリス(Mark Harris)。「この声明を読み返し続け、ますます頭に来ている。カミングアウトは、ゲイであることのすばらしい部分のひとつだ。それをこの下劣なことにくっつけるのは、とても悪いことだ」

オープンリー・ゲイの俳優、ザッカリー・クイント(Zachary Quinto)。「ケヴィン・スペイシーがこんな風にカミングアウトすると決めたということがとても悲しく、心を悩ませている」(中略)「(受賞時などの栄誉あるときだったら世界中のLGBTQキッズを力づけることができたのに)ケヴィンがただ自分の役に立つと――こんなにも長年にわたる否認と同じぐらい役にたつと思ったときに自分の真実を認める気になったということが悲しい」

ハーヴェイ・ワインスタインを性的暴行で告発した女優のローズ・マッゴーワン(Rrose mcgowan)。「親愛なるメディアの皆さまへ。アンソニー・ラップに集中し続け、被害者の声を伝えてください。わたしたちが業界を公平な場にするのを手伝って」。

なお一連の事態を受け、Netflixはケヴィン・スペイシーが主演と製作総指揮をつとめる『ハウス・オブ・カード 野望の階段』をシーズン6で打ち切ると発表。国際TVアカデミーも、彼に対する国際エミー賞功労賞の授与をやめると発表しています。

ちなみにワインスタインの件がきっかけで明るみになった同性間の性的虐待やハラスメントはこれだけではなく、『オーファン・ブラック』のジョーダン・ガヴァリス(Jordan Gavaris)も、新人時代にエージェントのタイラー・グラシャム(Tyler Grasham)から性的な嫌がらせに遭ったことを公表しています。グラシャムは俳優のタイラー・コーネル(Tyler Cornell)からもセクハラと性的暴行で告発されており、ロサンゼルス市警察が捜査を始めているそうです。こういうのも全部氷山の一角なんでしょうけれど、この際もう片っ端から全部暴いて、ハリウッドを今より公正な場所にしてほしいです。

追記(2017年10月31日)

他にもケヴィン・スペイシーに対する辛辣な反応をいろいろ見つけたので、訳しときます。

まずはレズビアンのコメディアン、スー・パーキンス(Sue Perkins)。「おみごと、ケヴ。自分のセクシュアリティについてずっと沈黙し続けて、未成年を性的に襲ったという申し立てとまぜこぜににできる時が来るまで待ってたなんてね」

スー・パーキンスのツイート続き。「そうすることで、あんたは同時に恐ろしい申し立てを軽視し、LGBT+コミュニティの進歩を邪魔したんだ。おみごと」。

ワンダ・サイクス(Wanda Sykes)。「ダメダメダメダメ! レインボーの陰に隠れることを『選ぶ』だなんて! 消え失せな!」。

映画『キャロル』の脚本家、フィリス・ナジー(Phyllis Nagy)。「(謝罪文を)書き直して。『ごめんなさい。わたしのしたことはぞっとするようなことで、ゲイ男性であることとはまったく関係がなく、権力の濫用と大いに関係があります』と」。

ユダヤ人のコメディアン、モッシェ・キャッシャー(Moshe Kasher)。「銀行強盗をしたと告発されて恥ずかしく思っています――自分がそれをしたのかどうかは記憶にないんですが――でも、これってみなさん全員にお知らせするのにいいタイミングですよね、ぼくはユダヤ人なんです」。

レズビアンの司会/コメディアン/女優のロージー・オドネル(Rosie O'Donnell)。「おぼえてないって――30年前のことを? ふざけんなケヴィン、ハーヴェイと同じで、みんなあんたのことは知ってたんだ――もっとたくさんの男性が進んで証人になってくれますように」。