PRIDEが、もしシスとトランスが反転した世界だったら映画のキャスティングはどうなるかを描いたギャグ動画を発表しました。
動画はこちら。
この動画の主人公は、シスジェンダーの(性別違和のない)男性俳優です。この世界ではシスジェンダーの人々はマイノリティで、シスのキャラクタが出てくる映画は貴重だという設定になっています。そんな貴重なシスジェンダー男性の役に応募した彼に、トランスジェンダーの監督ふたりはこんな対応をしています。
- 男性主人公を本人のジェンダーとは異なる代名詞(『彼女』)で呼ぶ
- それについて抗議されて、「あなたの性的指向は理解しています」と返事し、性的指向とジェンダー・アイデンティティの区別すらついていないことを露呈
- そしてまたうっかり「彼女」と呼ぶ
- 正真正銘シスジェンダーの主人公を「シスジェンダーらしさが足りない」と評価
- 主人公から「自分自身がシスなのに、シスがどう見えるかをぼくが理解していないとでも?」と抗議され、「あなたは本物の男に見える」と答える。つまりマイノリティの男性は本物の男に見えないはずだと思っている
- そもそも「シスジェンダー」という語すら正しく言えない。その程度の知識しかない
- 知識不足をとがめられ、彼ら(非トランスの人々)は新しい用語を毎週思いつくからついていくのが大変なのだと言い訳する
- だからラヴァーン・コックスにこの役をやらせようと言ったんだ」と言い出す
- 「シス男性の役をトランス女性にやらせるんですか」と言われ、「ラヴァーン・コックスの方が知名度が高い」「シス男性になるのなんて簡単」などと言いつのる
- シスの役者はオーディションを受けさせてもらうだけで大変なんだと説明されても、笑いながら「努力が足りない」と言う
- それでも主人公からいかにシスの役はステレオタイプばかりで、シスの役者がキャスティングから排除されているかについて熱弁され、ついに彼を雇うと決める。でもそこで「ひとつ質問があるんだけど」と前置きして口にするのは「あなたの性器はどうなってるの?」
これ全部、現実世界でトランスの役者がやられていることを反転させた構造になっています。つまり、「トランスジェンダー」という単語も、その意味するところもよくわかっていないシスジェンダーのクリエイターがトランスキャラが出てくる映画を企画し、本物のトランスの役者を「トランスらしさが足りない」と排除し、そのくせトランスの役者の仕事をシスの役者が奪っているという認識はなく、トランスの経験を侮っていて、トランスの雇用問題を個人の知名度不足や努力不足のせいにし、あげく聞きたがるのは仕事とは関係ない性器の形状のことばかり……という、実際にハリウッドで起こっていることを皮肉る内容になっているわけ。
Netflixオリジナル映画に、男女の立場を逆転させたパラレルワールドを通して現実の性差別を浮き彫りにしてみせる、『軽い男じゃないのよ』というコメディがあります。この動画はそれのシス/トランス版みたいだと思いました。立場をひっくり返してみて失礼なことは、ひっくり返す前もやはり失礼だってことですね。