2021年は語学関係のエントリを書こう書こうと思って結局書けてませんでした。土壇場で一本だけ、このエントリを上げときます。
長いので要約
- 1年間で推定語彙数が7000語ぐらい増えたよ
- ターゲット言語で本を読みだすと伸びが早いよ
- スペイン語を3年間ガツガツ勉強すると、4年目にはガルシア・マルケス(の、比較的簡単な著作)をスペイン語で読めるぐらいにはなるよ
- おまけとして語学関係のおすすめ書籍をリストアップしたよ
本編
なんでか語彙数が増えたよ
いち学習者として、毎年年末にarealme.comでスペイン語の推定語彙数のテストをするのを楽しみにしています。2018年→2019年では、推定語彙数は1000語ぐらい増えてました。2019→2020年ではさらに3000語ほど増え、トータル9596語まで行きました。が、今年はなんか異変が。うろたえながら撮ったスクリーンショットを以下に晒すと、こんなです。
いきなり1万6千超えて。上位8.72%て(去年は41.01%でした)。ついてる説明文が「君の語彙は大学を卒業したプロフェッショナルレベルだよ!」て(去年は『スペインの10歳児レベル』でした)。
理由はたぶん読書だよ
この手の推定値があんまりあてにならないのはわかってますが、それでも何が起こってるのかさっぱり理解できず、しばし動揺しまくりました。少し落ち着いてからはたと思い当たったのが、「ひょっとして、スペイン語での読書が効いてきてるのでは」ってことです。今年は趣味の読書をスペイン語「で」やることにして、小説やらノンフィクションやらを辞書を引き引き20冊読み切った*1からです。あと、読んだ本からのセンテンスマイニング*2でAnkiのモノリンガルなS-Sセンテンスカード(スペイン語の例文で出題してスペイン語で答える)を作り始め、さらに日本語学習情報サイトJapanese Level Upで紹介されてる"branching"という手法でカードを増やしていったのもよかったんじゃないかと思います。あれをやると、単語と単語のつながりが、頭の中でものすごい勢いで強化されますから。
ちなみにこれまでの推定語彙数の推移と、語彙の増強に関してやってたことを簡単にまとめると、以下のようになります。
年度 | 年末時点の推定語彙数 | この年に語彙に関してやってたこと |
---|---|---|
2018 | 5220 | 市販の単語集をやる。*3 |
2019 | 6385 | Ankiを使い始める(E-Sカード*4、S-Eカード*5)。Graded readerを4冊読む。 |
2020 | 9596 | Graded readerを14冊読む。 |
2021 | 16614 | Graded reader7冊と、スペイン語の一般書20冊読む。読んだものの中からAnkiのS-Sセンテンスカードを作り始める。Audioカード*6も始める。 |
すごく単純にとらえると、Ankiを使わずに学習<Ankiを使って学習<読書+読んだもののセンテンスマイニングで作ったAnkiカードでの学習、の順で、語彙数が増えやすくなってる感じ。
でもまだ全然力不足だよ
2021年末現在、自分のスペイン語力がどれぐらいなのかというと、「ガルシア・マルケスなら『ある遭難者の物語』、カルロス・フエンテスなら『アウラ』ぐらいを大変楽しく読めるが、『百年の孤独』を全部スペイン語で読めと言われたら泣く」ぐらい。つまり、まだ全然足りてません。
とりあえず来年は、上記の作家ならば『戒厳令下チリ潜入記-ある映画監督の冒険』、『予告された殺人の記録』、『埋められた鏡―スペイン系アメリカの文化と歴史』あたりをスペイン語で読もうと思ってます。
今年の学習記録
今年やり切ったテキストと、読み切った本はこちら。
そして、今年1年間の学習時間の記録はこちら。
最後に、Ankiの統計を。
来年もこの調子でがんばるわ。
おまけ・語学関係のおすすめ書籍あれこれ
去年の年末に、「語学の話ももうちょっとしたい」と書いたのに全然語学系のエントリを上げられなかったので、せめて語学全般のおすすめ書籍をここでまとめて紹介しておきます。
1. 「外国語を勉強したいが、何をどうやったらいいのかわからない」方へのおすすめ書籍
とりあえずこれ買って、何もかもこの本の言う通りにしとくのがいいと思います。
……というのは、自分が英語を習得したプロセスを振り返ってみてもだいたいこの本の通りのことをやってるし、今スペイン語を学ぶのにもほぼ同じ道をたどってきてるからです。この本に書かれてないことで、やった方がいいと個人的に思うことを付け加えるなら、
- 使えるならAnkiを使った方がよい
- ForvoやFilmot、Tatoeba、Microsoft AzureのText to Speech、Language Reactor等々、ネット時代ならではの便利なものも積極的に取り入れた方がよい
……ぐらいですね。
「1冊だけでは足りない、もっといろいろ読んでみたい」という方には以下の本もおすすめ。
英語の本でもいい方には、こちらがイチオシ。
このFluent Fantasyの著者は上の方でちょっと触れたJapanese Level Upのサイトマスター、アダム・シャピロさん。Japanese Level Upおよびこの本の何がすばらしいかというと、母語が日本語な人にとって英語学習が大変なのと同じぐらい、英語が母語である人が日本語を習得するのも大変なのだとわかること。結局「日本人が」外国語学習オンチなのではなくて、「日本語と印欧語はあまりに違い過ぎるので、そのギャップを乗り越えるのは何人にとっても大変」ということなんだと思います。で、その巨大なギャップを乗り越えるための具体的な戦略を、平易な英語で、RPGやドラゴンボールなどの喩えを使って面白く説明してくれているのがこの本。正直、自分が今年スペイン語の本を20冊読み切れたのは、本書第3章のタイムマネジメントについてのくだりを読んで大いに発奮したからだったりします。
2. 「語彙っていったい何語ぐらいを、どうやって覚えたらええねん」とお思いの方へのおすすめ書籍
このテーマなら、この本にとどめをさします。
これは語彙修得に関するさまざまな研究結果をまとめた本で、非常にわかりやすいです。たとえば「英語でどんなことをするのにどれぐらいの語彙サイズ(厳密にいうとword familyの数)が必要か」なんてことについて、こんな表(訳はみやきちによります)で説明されてたりします。
テクスト | 95%の単語がわかる | 98%の単語がわかる |
---|---|---|
小説 | 4000 | 9000 |
新聞 | 4000 | 8000 |
子供向け読み物 | 4000 | 10000 |
子供向け映画 | 4000 | 6000 |
話し言葉の英語 | 3000 | 7000 |
この「98%わかる」というのは、「辞書がなくても、わからない単語の意味を前後の文脈から類推してコンテンツを楽しむことができる」ぐらいの難しさです。人によってはもう少しわからない単語が多くても類推でなんとかなるんだけど、そういう人でさえ「わからなすぎてつらい、これ以上は無理」となる分水嶺が95%。自分の場合、(英語じゃなくてスペイン語ですけど)2020年末に語彙数が9596になってから小説を読み出して、それでちょうどよかったので、この表にはわりと説得力を感じていたりします。
同書にはこのほか、外国語学習者が悩みがちな、
- 語彙を増やすには、receptiveな学習(日本語が母語の英語学習者の場合、『英→日』の練習をすること)とproductiveな学習(同、『日→英』の練習をすること)のどちらがいいのか
- わからない語に出くわしたとき、「語の意味を類推して、それが合っているかどうかは確認せず先に進む」、「類推した後、答え合わせをして先に進む」、「答え合わせの後、正解を記憶するところまでやる」のどれをやればいちばん語彙数が増えるのか
- 本を読んで語彙を増やすにはどんなものを何冊ぐらい読めばいいのか
なんて話もたくさんあって面白いです。
3. 「勉強は嫌だから、『赤ちゃんのように自然に』外国語を覚えたい」とお思いの方へのおすすめ書籍
これ読んであきらめてください。
本書第1章で説明されてますが、第一言語の学習って、お母さんのおなかの中にいるときから既に始まってるらしいんですよ。もう少し具体的に言うと、赤ちゃんはおなかの中で母語のリズムとイントネーションを学び、生まれた後にそれを使って人の声を単語に区切っていくのだそうです。ということは、本当に「赤ちゃんのように」言語を学ぼうと思ったら、まず妊娠期間と同じ日数を一緒に過ごしてくれるネイティブ話者を雇い、24時間その人のおなかにへばりついてターゲット言語のリズムとイントネーションを学ぶところから始めないといけないわけで……無理でしょ、そんなん。
そして、仮にそれをやり切ったところで、生まれた後に赤ちゃんがやっている音素の聞き分けを、大人が同じようにやれるとは思えません。大人はすでに、母語の音素のカテゴリー(どの音を『同じ音』とみなすかという知覚の仕組み)を身につけてしまっているからです。
それを超人的な努力で乗り越えられる人が万一いたとして(この時点で既に『勉強が嫌』な人には無理そうですが)、そこから3年間「赤ちゃんのように」言葉を覚えていっても、それでようやく3歳児レベルの言語能力なわけでしょ? 本書によると、3歳児ってまだ形容詞も的確には使えないレベルですよ。3年間正攻法で語彙と文法を勉強すれば、4年目にはもうその言語で面白い小説を読むことも、ゲーム実況動画を見ることも、TED Talkをだいたい楽しむこともできるのに(実際、今これ全部スペイン語でやってるところです)、なんでそんな遠回りなことをせにゃならんのだ。……とまあ、そういうことを悟るために大変よい本です。あと、第5章第5節「システムが先にできていたら―外国語の学習」は特に、広く外国語学習者全般に役立つ内容だと思います。
*1:字で読むだけじゃなくて、オーディオブックが手に入るものは全部本と一緒に買って聴いてました。だいたい「これから読む部分を先取りで聴く」、または「今日読み終わった部分を夜寝ながら聴く」という使い方をしてます。
*2:学習中の言語で消費したネイティブ向けコンテンツ(本、ドラマ、映画、動画、ゲームetc.)の中から、Ankiで覚えたい単語や表現が入ってる文を発掘すること。cf. Basic Sentence Mining - Refold
*3:スペイン語はもともと第2外国語で取ってたし、2018年以前にもブランクをはさみつつ勉強はしてたので、この年にいきなりゼロから5220語まで語彙が増えたわけではありません
*4:英語→スペイン語にするカード。なぜ英語なのかというと、ベースにしたテキストがMastering Spanish Vocabularyという英語話者向けのものだったからです。
*5:スペイン語→英語にするカード。
*6:Ankiの表面、つまり問題の面が音声のみになってるカード。当然、聴き取れないと答えられない。