石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

「クラブQ」銃乱射事件で容疑者を阻止した客のひとりはトランス女性 米国・コロラド州

2022年11月19日に米コロラド州のLGBTQナイトクラブ「クラブQ」で起こった銃乱射事件で、容疑者を阻止した客のひとりについて、情報がちょっと混乱しているみたい。当初「ドラァグのパフォーマーがハイヒールで容疑者の顔を踏みつけていた」とする報道があったのですが、その後、事件の夜同クラブのショウに出演していたという人から、「(容疑者をハイヒールで踏んでいたのは)ドラァグクイーンではなくトランス女性だった」として訂正を求める声が出ています。古い情報をそのまま拡散するとミスジェンダリングに加担することになりかねないので、気をつけましょう。

追加情報まで含めて全体の流れがわかりやすい報道は、このあたり。

www.tmz.com
www.lgbtqnation.com

そして、初期に流れた、「ドラァグクイーン」または「ドラァグパフォーマー」が容疑者をハイヒールで攻撃していたとする報道はこのへんです。

www.nytimes.com
people.com

この「ドラァグが容疑者を蹴ってた(あるいは踏んでた)」説は、容疑者をとりおさえた客のひとりで復員軍人のRichard Fierroさんが、加勢を頼んだ相手のことをショウの出演者と勘違いしていて、インタビューでもそのように話していたことから生じた誤解のようです。

Fierroさんは上記動画で、容疑者を引きずり倒した後のことをこんな風に説明しています。

前にいた若いのに、「こいつの頭を蹴れ、頭を蹴り続けろ」と言ったんです。ショウのパフォーマーのひとりが通りかかって……走って通り過ぎるところだったんで、その人に「こいつを蹴れ、こいつを蹴れ!」と言ったんですよ。で、彼女はハイヒールでそいつ(容疑者)の顔に一発くらわせた。

I told the kid in front of me, "kick him in his head, keep kicking him in his head." One of the performers walked by... was running by and I told her, "kick this guy, kick this guy," and she took her high heel and stuffed it in his face.

Fierroさんは少なくともここでは一度も「ドラァグクイーン」ということばは使っていません。が、New York Timesは上記の場面を「ドラァグのダンサーのひとりが銃撃犯をハイヒールで踏みつけた」と描写。Peopleは、見出しで「ドラァグパフォーマー」が銃撃犯を止めたという表現を採用しました*1。そんなこんなで巷には、「警察よりドラァグクイーンの方が勇敢」とか「学校にはドラァグクイーンより警官を入れた方がいいと思ってる共和党員は間違ってる」のようなツッコミが多数生まれることに。

しかしながら、事件当夜「クラブQ」でショウのホストをしていたというドラァグクイーンのDel Lusional(@UnluckyBanshee)さんが11月22日、以下のようなツイートを発表したんです。

ざっくり訳:

私の命の恩人のひとりで、銃撃者の顔面を踏みつけていたのは、ドラァグクィーンではなくトランス女性です。トランスフォビックな襲撃に心痛む今というときに、トランス女性をドラァグクイーンと呼ぶのはやめましょう。

The one who saved my life and stomped the shooter’s face in was not a drag queen, she is a trans woman. Let’s not call trans women drag queens during this time of grieving over a transphobic attack.

これもはっきりさせておきたいのですが、私は、リチャードは彼女がドラァグのパフォーマーではないということを知らなかったのだと思います。でも今、わたしたちはそのことがわかっているのですから、訂正しようじゃありませんか。

I also want to make it clear, I don’t think Richard knew that she’s not a drag performer. But now that we know, let’s correct it.

危なかった。初期報道を見た時点で反射的に「アンチドラァグな共和党ザマアミロ」と思っちゃったあたしのようなおっちょこちょいこそ気をつけねば。この事件については、他にも「アルドリッチ容疑者は自分はノンバイナリーで代名詞はthey/themだと言っている(と弁護団が主張)」というニュースが出たかと思いきや、すかさず「ノンバイナリーだという記録は皆無/両親・親族・友人・隣人は同容疑者のことをhe/himで表現している/同容疑者は"f*ggot"という罵り言葉をよく使うホモフォーブだった」という報道が出たりもしていて、ずいぶん情報が錯綜しています。大きい事件であるだけにいっそう、継続的かつ網羅的にニュースを読んでいく必要があると思います。

*1:今後訂正が入るかも?