石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『える・えるシスター(1)』(邪武丸、一迅社)感想

える・えるシスター: 1 (REXコミックス)

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行き過ぎた姉妹愛を描くライト百合コメディ

背は高いのに中身はヘタレの妹「ふたば」と、そんなふたばを溺愛する才色兼備の姉「一菜(いちな)」が繰り広げるドタバタコメディ。一菜の暴走する姉妹愛と、それに振り回されるふたばの可愛さが面白いです。ただし、同性愛を「おかしな道」と形容している(p. 15)漫画だけのことはあって、ふたりのシスコンぶり・百合っぷりもあくまで「面白おかしいこと」としてのみ扱われている印象がなきにしもあらず。恋愛方面にはあまり期待せず、軽めのコメディと割り切って楽しむのが吉だと思います。

一菜の暴走する愛について

一菜からふたばへの熱愛については、第1話で既に

ふたばちゃんかわいすぎるよもぉぉ〜っ♥(引用者中略)ふたばちゃんにいたずらしたいいいっ♥♥
と絶叫しまくるという飛ばしっぷり(pp. 26 - 28)から推して知るべし。読み切り版で「血縁を越えるくらいのスゴイ関係」を狙っている(p. 167)ことからもわかる通り、この人ってただのシスコンではなく、かなりの割合でセクシュアルな欲望が混じっているシスコンなんですよね。そのあたりのエロさ・きわどさが非常に面白かったです。

振り回されるふたばの可愛さについて

これもまたよかった。身長が180cmもあるのに内気で小心で、ひたむきにお姉ちゃんのことを想っていて、実にいたいけなキャラなんですよふたばは。ふたばのシスコンには一菜と違って性的な意味合いはほとんどないのですが、そのへんのギャップから生まれるなんともいえないおかしみなんかもよかった。体格ゆえの怪力ギャグも、とても楽しかったです。

唯一気になった点

第1話の、姉が女教師とデキていると誤解したふたばのモノローグがややホモフォビックかなと思いました。ここ(p. 15)です。

だいたいあのマジメなお姉ちゃんがそんなおかしな道にふみこむなんてぜったいぜったいありえないし きっとあの女先生? がなんかおかしな

同性とつきあうのは「おかしな道」で、マジメな人はしないことなんですか、そうですか。あと、異性愛者だと思われていた人が同性とつきあっていたら、それは相手が「なんかおかしな」ことをして誘惑したからだと? へえええ。

百合漫画でわざわざこのようにヘテロノーマティヴィティー(異性愛規範性)を強調しっ放しで特にフォローも無し、というのは、結局はメインカップルの百合関係自体をも「なんかおかしな」こととして卑小化することにつながると思います。言い換えるなら、こうした台詞というのは「この漫画は百合方面にはたいして踏みこみませんよ、ブレーキをかけますよ」という宣言にも受け取れてしまいます。実際、あとがき(p. 193)で作者様が

当初はもう少しいわゆる百合テイストを前面に押し出す感じの作りを考えていたのですが、ふと気付いたら「アホな女の子たちがアホなことする話」になりつつありまして

とおっしゃっているのですが、むべなるかな、と思います。2巻以降でもこの路線を保つのか、それとも規範をひっくり返すようなクィアな大逆転が出てくるのか、気になるところです。

まとめ

姉・一菜の暴走しまくる姉妹愛(欲望込み)がとても面白いし、ヘタレな妹・ふたばの可愛らしさも光っています。コメディとしても楽しいです。ただし、微妙にほのめかされる異性愛規範性から言って、少なくとも今のところはあんまり百合方面の進展は期待できないかと。とりあえず今後の展開を見守りたいと思います。