石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『まなつラビリンス(1)』(桂よしひろ、幻冬舎コミックス)感想

まなつラビリンス 1 (バーズコミックス)

まなつラビリンス 1 (バーズコミックス)

ちょっとだけ百合っぽい「閉ざされた学園」もの

時間が止まった女子校に閉じ込められた5人の少女たちの運命を描くSFもの。「閉ざされた学園から出る唯一の方法は、主人公『まなつ』が他の少女とキスすること」という点がちょっと百合っぽいです。ただし、まなつは同性愛を「シュミ」「性癖」呼ばわりするコッテコテのストレートだし、唯一存在するガチなキャラ「りりぃ」も今のところはイロモノ扱いなので、ラブ方面にはあまり期待できなさそう。少なくとも1巻においては百合部分はオマケと割り切り、エロティックな絵柄と少しずつ明かされる謎を楽しむことに専念した方がいいんじゃないかと思います。

あらすじと設定

『まなつラビリンス』では、謎の力によって外界から切り離された学園で、永遠にループする日常が繰り返されます。外に出ようとしてもなぜか戻ってしまうため、5人は協力して学園内で生活することになります。レズゲーマーさんには「心と身体の入れ替わりがない『肉体転位』」、その他の方には「『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』みたいなもの」と説明すればおわかりいただけるでしょうか。

こうしたSF的「嵐の孤島」設定自体は、既に目新しさを失っていると思うんですよ。けれどもこの作品では、考察役にオタクキャラの「ドリ子先輩」を持ってきたり、お話の引き締め役に落ち着いた(それでいてどこかすっとぼけた)「華王院さん」を使ったりという巧みなキャラ配置がうまく働いて、読者を最後まで飽きさせません。空間のねじれを単に脱出不能の言い訳としてだけ使うのではなく、主人公の身に迫る危険の演出として使ってみせる(第8話)ところなんかも斬新で、ドキドキさせられました。

絵柄について

エロゲあるいはエロマンガ風のむっちりした絵が非常に特徴的です。よく張ったフトモモや肉感的な唇がお好きな方なら、ごはんが三杯いけるかと。これだけ官能的な絵柄でありながら、無意味にあざといエロを演出したりしないところもいいですね。さらに、言葉ではなくこの達者な絵で丁寧に伏線が張られていくところも、とてもよかったです。

でも、百合方面はいまいち

今のところ、「主人公のヘテロ性を強調しつつ、都合よくレズビアンエロティシズムだけ横奪する」というよくあるパターンの域を少しも出ていないと思います。まなつがクラスメイトの「あーちゃん」に何度もキスしそうになるのは本人の意思ではなくて宇宙人(?)のせいだし、まなつ本人は「そんなシュミない」(p. 16)、「その性癖はない」(p. 83)とひたすら言い続けてますしね。結局、少なくともこの1巻は、「女同士のキスや接触は見たいけど、異性愛規範がおびやかされるのは嫌」というヘテヘテな人向けだと思っておいた方がよさそうです。

ちなみに「性癖」という言葉を性的指向(sexual orientation)という意味で使うのは間違いですよ。以下、Yahoo! 辞書から引用(強調は引用者)。

せい‐へき【性癖】
性質上のかたより。くせ。「大言壮語する―がある」

◆「性」を性質の意ではなく性交の意ととらえ、誤って、性的まじわりの際に現れるくせ・嗜好、交接時の習慣・習性の意で用いることがある。

あんまり性癖性癖言われると、まるで「同性愛は『かたより』であり『くせ』である」と強調されているみたいで、いち同性愛者としてはすごく嫌です。いいかげんにやめてもらえませんかね、こういうの。

まとめ

画力も高いしキャラクタ配置も巧みだし、伏線の仕掛け方もよくて、お話そのものはじゅうぶん面白いです。でも、あちこちで異性愛規範へのすり寄りが鼻につくため、百合ものとしては今ひとつな印象。女のコ同士のいろいろにはあまり期待せずに読むのが吉だと思います。