石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

英国同性婚実現から1年。反対派の予言はこんなに外れてました

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2015年3月29日で、イングランドとウェールズで同性婚が法制化されてからちょうど1年。PinkNewsがこれを記念し、「同性婚反対派の予言10種がいかに外れたか」特集をしています。昨今の日本の同性婚論議にも通じるものがあり、面白いですよ。

詳細は以下。

One year on: 10 predictions about same-sex marriage that didn’t come true · PinkNews

上記リンク先の内容をごくざっくりと箇条書きにまとめると、こんな感じ。

  1. 近親相姦は合法化されず、ノーマン・テビット(Norman Tebbit)卿はいまだ兄弟と結婚していない
    • 英国保守党元党首のテビット卿は、「ゲイの結婚を認めるなら家族同士の結婚まで認めるのか」「自分は兄弟をとても愛しているぞ」などと発言していたとのこと。
  2. 天が裂けて聖書にあるような嵐が起こったりしなかった
    • 元UKIPのデイヴィッド・シルヴェスター(David Silvester)氏は、2014年初頭に英国を襲った嵐を、政府が同性婚を認めようと決めたために起こったのだと主張していました。しかしいざ同性婚が法制化されたのち、英国ではむしろ快適な気候が続き、聖書に登場するような災害は起こっていません。
  3. 動物性愛者の権利運動は始まらなかった
    • Fox Newsの元キャスター、トッド・スターンズ(Todd Starnes)氏は、同性婚を認めたら獣姦まで合法化されると主張していました。
  4. 死者が墓から蘇って「死体性愛(ネクロフィリア)の日」を祝ったりしなかった
    • コロンビアの上院議員エドガル・エスピンドラ(Edgar Espíndola)氏、ポーランドの国会議員スタニスラフ・ピエタ(Stanislaw Pieta)氏、リトアニアの政治家ペトラス・グラジュリス(Petras Gražulis)氏などは、同性愛を死体性愛と同列とみなす発言をしていました。
  5. 教会やモスクが同性同士の結婚式を挙げるよう「強制」されたりしなかった
    • UKIPのナイジェル・ファラージ(Nigel Farage)党首は、宗教団体が信念を曲げて同性婚を司るよう強制される「法的リスク」があると発言していました。
  6. 平等な結婚に反対する教師が大量解雇されたりしなかった
    • 反同性婚団体「Coalition for Marriage」のコリン・ハート(Colin Hart)氏によれば、政府が平等な結婚を認めると職員室に「悪意に満ちた雰囲気」が形成され、同性婚反対派の教師が「何万人も」解雇されるはずだったんですが。
  7. 小児性愛は今なお違法
    • UKIPのジュリア・ギャスパー(Julia Gasper)元議員、スコットランド自由教会のジェイムズ・グレイシー(James Gracie)牧師、米ラジオ番組ホストのラッシュ・リンボー(Rush Limbaugh )氏などは、ゲイを平等に扱うなら小児性愛まで合法化せねばならぬと主張していました。
  8. 誰かのアナルから悪魔が出てきたりしていない
    • キリスト教原理主義者のJoseph Sciambra氏は、ローマ法王の「同性婚は神の計画への攻撃」という発言を根拠に、ゲイがアナルセックスをすると尻の穴から悪魔が出てくると主張していました。
  9. 「ジェダイ婚」が無理やり法制化されたりしていない
    • スコットランド自由教会のイーヴェル・マーティン(Iver Martin)牧師は、地球平面協会やジェダイの騎士協会を例に挙げ、これらのカテゴリーにまで結婚を認めることになったら「抑えが利かなくなる」(だから同性婚もダメ)と主張していました。
  10. 復活したイエスが男性との結婚を強いられたりしていない(今のところは)
    • 米国オハイオ州のラジオ局ホスト、リンダ・ハーヴィー(Linda Harvey)氏によると、同性婚法を成立させると、復活したイエスが男性と結婚することになるんだそうです。

やれやれ。

上記のリストを、カール・セーガンが『人はなぜエセ科学に騙されるのか(上)』*1で提示した「トンデモ話検出キット」(p. 390)と合わせ読むと、実に味わい深いです。

「同性婚を認めたら近親婚/獣姦/小児性愛/死体性愛/ジェダイ婚等々も認めねばならなくなる」説は、セーガンの言うところの<危険な坂道>("slippery slope")タイプの詭弁。つまり、なぜそうなるのかという理由を決して説明しない(できない)まま、「Aが起こればZに至る。だからAを阻止しなければならない」とする主張です。

この手のトンデモ話に反論するには、同じく<危険な坂道>論法を用いて「同性婚を禁止したら、異性婚まで禁止しなければならなくなってしまう。だから同性婚は禁止してはならない」と返せば十分。因果関係が立証できない理屈を認めろと主張するのなら、この理屈が認められない道理はありません。

「同性婚のせいで災害が起こった」説は、<観測結果の選り好み>。この論法を説明するため、セーガンはこんな例を示しています。

自州から大統領がたくさん出たことは自慢するが、連続殺人犯がたくさん出たことは黙っている。

同性婚が可能になる直前の災害には言及するのに、その後大きな災害が起こっていないことについては何も言わないというのは、まさにこれですね。さらに言うと、災害と同性婚を結びつけるのは、<因果関係のこじつけ>でもあります。これは「〇〇をやったら××になった。それゆえ、〇〇は××の原因である」とする論法で、例はこんな。

女が選挙権を得るまでは、核兵器は存在しなかった。

そして、教師が解雇されるだの、宗教団体が同性同士の結婚式を強制されるだの、はたまたイエスが同性と結婚させられるだのという説は、<「そうじゃないと具合が悪い」式の論証>("argument from adverse consequences")。これは「もしAが正しくなければ、望ましくない(具合が悪い)現象Bが起こる。したがってAは正しい」とするタイプの詭弁で、セーガンの挙げている具体例はこちら。

妻殺しの疑惑でマスコミをにぎわせた裁判があった。その裁判の被告人は、有罪にされるべきである。さもないと、男たちにどんどん妻を殺せとけしかけることになる。

平等な結婚に反対する人たちの主張がこんなにも詭弁だらけなのは、結局のところ、論理的で説得力ある根拠が見つけられないからだと思います。根拠がないからこそこれらの説は既に世界中でその欺瞞性を見抜かれ、反論され尽くしているのですが、それでもまだ真顔でこんなことを言う人はたくさんいます。日本にもね。

自分としては、こういうトンデモ説への対応は、時間と気力があれば丁寧に反論するもよし、ミサワ風に「へぇーこの主張2年くらい前に流行ってたよね 2年くらい前に見たわ」と流すもよしだと思ってます。なお、もう少し辛辣なことをつぶやきたい方には、上記のリンダ・ハーヴィー氏による「同性婚を認めたらイエスが男と結婚する」発言に対してつけられていたコメントの、こちらの言い回しがおすすめです。

ばかなの、それともばかに付け込むペテン師なの?

Idiot, or grifter pandering to idiots?

悪霊にさいなまれる世界〈上〉―「知の闇を照らす灯」としての科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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*1:2009年以降の版は、より原題に近い『悪霊にさいなまれる世界(上)―「知の闇を照らす灯」としての科学』に改題されています。