石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『LGBTってなんだろう? からだの性・こころの性・好きになる性』(藥師実芳他著、合同出版)感想

LGBTってなんだろう?--からだの性・こころの性・好きになる性

わかりやすく包括的なセクマイ入門書

性的マイノリティについての、明解かつ懇切丁寧な入門書。LGBTのみならず、LGBTのカテゴリーにあてはまらないセクマイについての記述も豊富。悩めるティーンや親・教師ほか、性的少数者についての知識と理解を深めたいあらゆる人に超おすすめです。

とにかくわかりやすいです

日本語圏の住人としては、カタカナで「セクシュアリティ」("sexuality")とひとくちに言われても、ピンと来にくいと思うんです。いわゆる「性的指向」("sexual orientation")とはまた違うし、辞書をひいても「性的特質」(デジタル大辞泉)、「性的関心、性欲、性行為」(研究者新英和中辞典)のような茫漠たる説明しか出てきませんし。

そんな曖昧模糊とした「セクシュアリティ」という概念を、びっくりするほどわかりやすく説明してくれるのがこの本。本書の導入部ではまず、セクシュアリティとは「性のあり方」のことで、「からだの性・こころの性・好きになる性」の3要素から説明できると説かれています。その後、この3要素を軸とするチャートにさまざまなセクシュアリティをプロットして図解していくのですが、その図がもう、「一目瞭然とはこのことか」とでも言うべき明快さでしてね。「L」のひとりとして、性的マイノリティについての説明はこれまでいろいろ読んできたつもりですが、「こんな説明のしかたがあったとは」と目からウロコがばりばりはがれる思いでした。

お恥ずかしい話ですが、この本を読んで初めて、巷で混同されがちな「バイセクシュアルとパンセクシュアルの違い」がすとんと理解できたんですよあたし。Xジェンダーの性自認が人によりさまざまであることも、本書の図解のおかげで初めて腑に落ちました。視覚化の力、すごいわ。おすすめだわ、この本。「そもそもLGBTって何ですか」とか、「性同一性障害とゲイの違いがわかりません」とかいうあたりにいる方々にも必ずや役立つ、たいへんすぐれた入門書だと思います。

「L」「G」「B」「T」の枠にとらわれない記述

さまざまなセクシュアリティを図解しつつ、その図にいちいち以下のような説明を添えてあるところがまた心憎いです。

上の図で示したセクシュアリティは、男/女の二分法で分けた便宜上のものです。実際には中間領域にいる人やこれらの枠組みにあてはまらない人もいるため、セクシュアリティはさらに多様化しています。

たとえば、ゲイという同じセクシュアリティであっても、からだの性・こころの性・好きになる性の範囲が、必ずしも同じになるわけではありません。

この書き方はフェアだし正確だし、「L」「G」「B」「T」という4つのカテゴリーばかりが注目されやすい昨今において特に必要な情報を提供するものだと思います。これ以外の部分でも、性分化疾患やクエスチョニング、アセクシュアル、そしてヘテロセクシュアルについての解説もあれば、「性同一性障害」(GID)という単語がDSM-5には既にないことも明記されており、また単純な「LGBT」以外の自認を持つ学生たち(アセクシュアル、ポリセクシュアル、MtFtX、『男でもないけど女でもない』、『シスヘテロではない』等々)の声も多数収載されていて、できる限り新しく包括的な記述を目指した本だと感じました。

そもそも上記の図表による説明だって、最初に出てくる例が「シスジェンダーヘテロセクシュアル女性」と「FtMパンセクシュアル」ですからね。つまり、シスジェンダー男性のゲイや、出生時に<からだの性>が男性だったMtFばかりに注目するような、「『男』や『(L)GBT』から優先的に説明して当然」という隠れたカリキュラムがないんです。そこが非常に好印象でした。

保護者や教員にもおすすめ

おそらくこの本のメインターゲットは、性的少数者の子供に寄り添いたい大人、特に教員なのだと思います。実際、「なぜ学校でLGBTについて教える必要があるのか」という基本的なことから、性的マイノリティの子供たちが困っていることの具体例、それに対して大人ができること、相談窓口一覧、さらには授業実践報告から教材に使える資料案内まで、学校を想定した内容の部分が至れり尽くせりの充実ぶりですから。

宝塚大学看護学部准教授の日高庸晴氏の研究によれば、出身養成機関でLGBTについて学んだことのある教員は全体の1割以下。一方、「性の多様性に関する研修があれば参加したいですか?」という問いに「はい」と答えた教員は6割以上。このギャップを埋めるために、こうした本はとても重要なのでは。

読んでいてとくに感心したのは、「カミングアウトされたときにできること」の項目が、

  • 「知っていてほしい」型のカミングアウトの場合
  • 「困っている」型のカミングアウトの場合

の2タイプに分けて説明されていたこと。言われてみれば、たしかにカミングアウトってこのどちらかで性質が違いますもんね。カミングアウト「する側」である自分の中でさえ特に意識的にとらえていなかったことがここまではっきりと言語化され、「される側」のきめ細やかな対応例が挙げられているのを見て、なんだかとても嬉しく頼もしく思いました。すべての学校に1冊ずつこの本があればいいのに……!

まとめ

セクマイ当事者の自己理解や理論武装用としても、そして困っているセクマイ(の、特に子供たち)の力になりたいシスジェンダー異性愛者の勉強用としてもたいへん役立つ本。「LGBTについて知りたいんだけど、何を読んだらいい?」と聞かれたら真っ先におすすめしたい本のうちの1冊です。ネットで検索して得られる知識など、所詮は断片だけ。まずこういうわかりやすい入門書に目を通した方が絶対に早いですよ。

LGBTってなんだろう?--からだの性・こころの性・好きになる性

LGBTってなんだろう?--からだの性・こころの性・好きになる性