米国の高級フィットネスクラブが、プライド月間用のCMで「LGBTQAのAはアライ(Ally、支援者)のA」とする描写をし、批判を集めています。一般的にはこのAはAセクシュアル*1/Aロマンティック*2/Aジェンダー*3を表すものだからです。
詳細は以下。
Equinox Gym Released A Video For Pride And People Are Not Happy With It
ニューヨークに本社を置くフィットネスジムチェーン「イクィノックス(Equinox)」は、2017年6月9日、以下の動画を発表しました。
Six letters will never be enough to spell out your truth. In conjunction with @LGBTCenterNYC, we are all #PoweredByPride pic.twitter.com/osIuHrhgfF
— Equinox (@Equinox) 2017年6月5日
動画内ではまず女性同士のペアと男性同士のペアがそれぞれ人文字で「L」と「G」を形作ったのち、男性ふたりと女性ひとりの組み合わせに「B」、トランスジェンダーらしきの人物に「T」、ヴォーギングのようなダンスを踊る人々に「Q」の文字が重ねて表示されていきます。問題はその後。盾を持つ人々が複数現れ、ポーズを決めたところに、"A"、"Ally"(アライ、性的マイノリティ当事者ではない『支援者』のこと)と表示されるんです。
しかし一般的には、LGBTQAのAと言ったらまずAセクシュアルやAロマンティック、Aジェンダーを指すもののはず。アライもコミュニティの一員であり、頭文字の「A」で表されるという考え方もありますが、その場合には「LGBTQAA」のようにAをふたつ使ったり、「AはAセクシュアル/Aロマンティック/Aジェンダー/アライを表す」のように並べて書いたりするのが通例では。少なくとも、仮にもプライド月間を祝う動画で一文字しかない「A」をアライだけのものとし、Aセクシュアル/Aロマンティック/Aジェンダーの存在を無視するというのは杜撰すぎです。より詳しくは、元ツイートにつけられている抗議や批判のリプライを読んでみてください。
ちなみに動画の最後に出てくるキャッチコピーを訳すと、こんな感じ。
「6文字じゃ絶対足りない。LGBTQALPHABET(LGBTQアルファベット)を詳しく知ろう」
"SIX LETTERS WILL NEVER BE ENOUGH. EXPLORE THE LGBTQALPHABET"
……言いたいことはわからんでもないんですよ。性的少数者をアルファベットの頭文字で表す書き方には限界があって、LGBTと書こうとLGBTQAと書こうと、はたまたLGBTQIAAPやLGBTQQIP2SAAにしようと、どの頭文字にも当てはまらないマイノリティは必ずいるんですから。でも、それならなおさら、たった6文字しかない「LGBTQA」のAを別に性的少数者でもないアライに独占させるのは変じゃない?
さらに謎なのが、この動画の5分間バージョン。こちらではアルファベットの26文字が全部出てくるのですが、その内容をBuzzFeedがまとめた以下のリスト(各項目の和訳と解説はみやきちによります)をちょっと見てみてください。
- A – Ally(アライ:支援者)
- B – Bisexual(バイセクシュアル)
- C – Coming out(カミングアウト)
- D – Drag(ドラァグ)
- E – Exhibitionist(露出者)
- F – Femme(フェム)
- G – Gay(ゲイ)
- H – Heteroflexibile(『ヘテロフレキシブルな;ヘテロフレキシブルな人。原則として異性愛者だが、同性とも恋愛関係を持ちうる性的指向、またはそういった人』*4)
- I – Intersex(インターセックス:生物学的性のどこかの水準が、『典型的な』男女とは異なる状態だとされる人*5)
- J – Justified(正当と認められた)
- K – Kink(キンク:BDSMなど)
- L – Lesbian(レズビアン)
- M – Masc("Masculine"の略。つまり、『男らしい』の意。ゲイ向け出会いアプリなどで使われるスラング*6)
- N – Non-binary(ノンバイナリー:『男』『女』の二分法では定義できない性自認を持つ人)
- O – Out(アウト:カミングアウトしていること)
- P – Pansexual(パンセクシュアル:『すべてのセクシュアリティの人が恋愛や性愛の対象となる人*7』)
- Q – Queer(クィア:『あたりまえ』を攪乱させ新たな世界の可能性を開く実践のこと。LGBTQと同義*8と考える人もいれば、非ヘテロ・非シスジェンダーの意で使う人も)
- R – Real(現実の)
- S – S & M(SM)
- T – Trans(トランス)
- U – Undecided(自分はこうだ、と決めていない人)
- V – Vogue(ヴォーギング)
- W – Womxn(『女』。"women"または"woman"を避けるためにフェミニストなどが使う表記)
- X – Xtravagant(けばけばしい)
- Y – You(あなた)
- Z – Ze | Zir(ジェンダー・ニュートラルな代名詞)
露出やSM、ヴォーギングなど、性的指向でも性自認でもないものが山ほど入っている一方、相変わらず「A」はアライだけのものとされています。あたかもAセクシュアル/Aロマンティック/Aジェンダーのプライドより、アライのプライドの方が大事だとでもいわんばかり。この動画はニューヨーク・シティのLGBTセンターNYCの協力で作られたそうなんですが、それにしてはあまりに雑だとしか言いようがありません。
思うに、イクィノックスの皆さんはキャシーさんによる以下の一連のツイートを読まれるべきなのでは。
少なくとも、上記Togetter内の以下の3つのツイートだけでも読んでほしいわ。
アライとは、簡単にいえば支援者である。LGBTを支持するストレートの方だったり、人種問題に取り組む白人の方だったり、女性に対する性差別に声をあげる男性の方だったり、いろんな形のアライがいて、支援しているつもりが逆に害を及ぼしちゃう“アライもどき”もいるわ。#アライのいろは
— キャシー (@torontogay69) 2014年2月26日
アライになる上で、一番大事なのが相手と自分の社会的立場を知るということ。自分が社会の中で恵まれている部分と、相手が社会の中で不利な部分に注意を払って、絶え間ないコミュニケーションをしていくことはアライの責任だと思う。“アライもどき”はこれができてないことが多いわ。#アライのいろは
— キャシー (@torontogay69) 2014年2月26日
アライは運動の中心に立つのではなく、あくまで支援に徹する。具体的には、寄付をしたり、署名に参加したり、拡散を手伝ったり、相手ができないことを手伝ったりする。中心的な役割は当事者に任せて、彼らの声が遠くまで届くようサポートする。静かに一歩下がって、黒子になればいい。#アライのいろは
— キャシー (@torontogay69) 2014年2月26日
手に盾を持っていようといなかろうと、当事者の居場所を奪ってまでセンターステージに躍り出てくるのはアライではなく、同じ"A"なら"Attention seeker"(目立ちたがり)の"A"とでもとらえた方が正確なんじゃないかと思います。Business Insiderによればイクィノックスは月会費が160ドルから250ドルもする、米国のジムとしてはべらぼうに高額なところらしいのですが、自分だったらここに行くより中古のバーベルセットとパワーブロック(もしくはボウフレックス)買って家でトレーニングしていたほうがよさそうだと思いました。どんなに高級なマシンやおしゃれなスナックバーがあろうと、安心できない場所ではコルチゾール過多になってしまって、筋肉の発達によくありませんからね。
*1:「誰にも対しても、性的に惹かれることがない人」の意。出典:「ズッキーニ」って何? LGBTだけじゃない12の性的指向、まとめてみました。
*2:「人に対して恋愛感情を殆ど、または全く感じない人」の意。出典:「ズッキーニ」って何? LGBTだけじゃない12の性的指向、まとめてみました。
*3:ジェンダーそのものがない人。必ずしも性別違和があるとは限らないし、中性的だとも限らない。参考:What Does "Agender" Mean? 6 Things To Know About People With Non-Binary Identities
*4:出典: heteroflexibleの意味 - 英和辞典 Weblio辞書
*5:参考:加藤秀一・石田仁・海老原暁子著『図解雑学ジェンダー』(ナツメ社)pp. 188-189.
*6:参考:‘Masc 4 masc?’ What gay hook-up slang really means | Attitude Magazine
*7:出典:薬師実芳+笹原千奈未+古堂達也+小川奈津己著『LGBTってなんだろう? からだの性・こころの性・好きになる性』(合同出版). p. 12.
*8:参考:ケリー・ヒューゲル著『LGBTQってなに? セクシュアル・マイノリティのためのハンドブック』(明石書店)p. 221.