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石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

デンマーク、トランスジェンダーであることを精神疾患から除外へ 世界初

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デンマーク厚生相が、同国は世界で初めて「トランスジェンダーであること」(transgenderism)を精神疾患から外すと発表しました。WHOが基準を変えるまでには時間がかかりすぎ、デンマークはもう我慢が尽きたと同国の議員は話しています。

詳細は以下。

Denmark will no longer treat ‘transgenderism’ as a mental illness · PinkNews

最初に用語についておさらいをしておきます。以下、『図解雑学 ジェンダー』(加藤秀一他、ナツメ社)pp. 181-182の内容を要約して箇条書きにしてみました。

  • 「トランスジェンダー」:「自分の生物学的性別に違和感を持ち(性別違和)、その枠を越えようとする人々」のこと。広い意味ではTS、TVを含め「性を越境する人々」全てを指す
    • 「トランスセクシュアル(TS)」:「性別適合手術(SRS)を必要とする人々」のこと*1
      • 「性同一性障害(GID)」:生物学的性別を越境しようとすることを「心の病気」ととらえた診断名
    • 「トランスヴェスタイト(TV)」:「異性の服装を身にまとうことで性別違和を解消しようとする人々」のこと。TSが外科的な医療に組み込まれていくとともに、TSは「医療の優等生」、TVは「SRSの『恩恵』から漏れた人々」という価値観が生じた
    • 「トランスジェンダリズム」:医療に介入されたくない人々が立ち上げた概念。医療の優劣がついたTS/TVに対し、「私達は必ずしも医療を必要としない」と主張する人々が、1970年代の米国で自らの呼称として使い始めた
      • これが今の「トランスジェンダー」(TG、狭義)となる
      • ただし、TSではないと診断された人を医療従事者がTGと呼んでしまっている現状もある

現在、WHOの国際疾病分類では性同一性障害(GID)は精神疾患とされているのですが、この分類をあらため、障害ではなく性別違和(ジェンダー・ディスフォリア)ととらえるべきだという動きが世界中で高まっています。理由については『LGBTQってなに? セクシュアル・マイノリティのためのハンドブック』(ケリー・ヒューゲル著、上田勢子訳、明石書店)p. 186のこちらの説明がわかりやすいかと。

トランスジェンダーの活動家、ジェシカ・ザビエールは、GIDの診断を受けることにはよい面と悪い面があり、それに苦しむ人もいると言います。GIDと診断されると、精神面と身体面の治療を受けることができるようになり、これはとくに、性を移行する治療を望む場合には役立ちます。一方、GIDという精神障害と診断されることで屈辱を感じることもあり、世間や医療専門家から病人として、あるいは精神疾患者として扱われることにとまどいを覚えることもあります。

早い話が上記の「悪い面」が問題視されているわけです。こうした動きを受け、アメリカ精神医学会は、DSM-V(2013年)から「性同一性障害」という呼称を「性別違和」に変更すると発表しています。同学会のWebサイトでは、「この変更は、トランスジェンダーであること自体は障害ではないということを強調するものである」と説明されています。同性愛の脱病理化の流れと、ちょっと似てますね。

一方、WHOの動きはスローなんですよねえ。PinkNewsも指摘していますが、WHOが同性愛を国際疾病分類から完全に取り除いたのは1990年のこと。これじゃ、トランスジェンダーについての分類もいつ改訂されるかわかりません。

で、デンマークのSophie Løhde厚生大臣は、同国では2017年1月1日から「トランスジェンダーであること」を精神疾患から外すと発表したのだそうです。社会民主党のFlemming Møller Mortensen氏も、以下のように話しています。

「WHOは現在、診断登録のための新しい体系づくりに取りかかっているところです。とてもとても長い間、作業が続いています。我々はもう我慢が尽きました。『もしWHOのシステムが10月までに変更されないのであれば、我々デンマーク人は自分たちだけでやる』と発言することで、メッセージを送りたいと思っています」

彼はつけ加えた。「トランスジェンダーの人々を精神疾患や行動障害の枠に入れるのは信じがたいほど差別的です。それ以外の影響もあります。トランスの人々は、診断を受けているからという理由で保険に加入できないこともあるのです」

Flemming Møller Mortensen of the Social Democrats said: “The WHO is currently working on a new system for registering diagnoses. “It has been working on it for a very, very long time. Now we’ve run out of patience, and want to send out a signal saying that if the system is not changed by October, then we in Denmark will go it alone.” He added: “It’s incredibly discriminatory to put transgender people in a box with mental and behavioural illnesses. It also has other consequences. Trans people can be denied insurance because they have a diagnosis.”

さすが世界に先駆けて1980年代に登録パートナーシップ制度を採用した国だけあって、フットワークが軽いわ……。いまだにトランスジェンダーと性同一性障害が(そして、下手をするとトランスジェンダーとゲイさえも)ごっちゃにされ続けている日本から見ると、その後ろ姿がただただまぶしいです。もちろん、脱病理化しただけでいきなりすべての問題が解決するはずはありませんし、今後もまたいろいろな課題が出てくるのでしょうが、まずはデンマークのトランスの方々からの「制度を変えたら、こうなった」という続報を待ちたいと思っています。困りごとを減らすには、困ってる人に聞くのが一番ですからね。

*1:『LGBTQってなに? セクシュアル・マイノリティのためのハンドブック』(ケリー・ヒューゲル著、上田勢子訳、明石書店)pp. 186-187では、トランスセクシュアルについて、「心と体の性を一致させるためにホルモン療法や手術で身体を買える人を、トランスセクシュアルと言います(トランスセクシュアルはトランスジェンダーですが、トランスジェンダーがみなトランスセクシュアルというわけではありません)」と説明されています。手術をしたくない、あるいはできないトランスセクシュアルについても言及あり。)