石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『青い花(2)』(志村貴子、大田出版)感想

青い花 2巻 (Fx COMICS)

青い花 2巻 (Fx COMICS)

ラブストーリーとしても、一種のビルドゥングスロマンとしても面白い

文化祭での「嵐が丘」上演と、ふみと恭己の恋の行方とが軸になった巻。全体的にさして大きな変化はなく、続刊で描かれるらしい夏休みのエピソードで何か大きな山場がくるのかな、とあたしは思いました(注:単行本派なので、雑誌の方では読んでいません)。なんとなく「嵐の前の静けさ」っぽい巻だったな。

いや、2巻の中にも人によっては驚いたり「えっ、こうなるの!?」って思ったりするであろう箇所はあるんですが、あたしはそこで「さもありなん」「よくあることよね」「ま、様子を見なきゃわからんわさ」といちいち深くうなずきながら読んでしまったんですね。やーね、大人って。

でも、静かだからつまんないって意味では全然ないですよ。今回初めて描かれる杉本家の人々の描写なんて、たまらなく良かったです。恭己の3人の姉もお母様も、実にとんでもなくしなやかでしたたかでそれぞれに個性的で、おそろしく魅力的なんですよ。同性愛の話題に対する反応もとても楽しかった(とくにお母様!)。学校ではあんなに色っぽくかつ大人っぽく見える恭己が、このタフで美しい家族たちには完全に手玉に取られているところが、たいへん興味深かったです。結局、どんなに無自覚に色気を振りまいて女の子にもてまくっていても、まだ全然子どもなんですよね、恭己は。

1巻から通して読み返していて、「どうして恭己は京子ではなくふみを選んだんだろう」と一瞬思ったのですが、それはひょっとしたら、ふみの中に自分と似たものを見ていたからなのかも。そして、それでつきあい出してしまうところも、そのくせ後から2巻p117-118みたいなことを言い出してしまうところも、やっぱり彼女がまだまだ成長途中の子どもだからなのかもしれません。

2巻p118の恭己の台詞に杉本家の長女・姿子(しなこ)姉さんがことばを返すシーンには、「大人」と「まだ成長途中の人」との違いが鮮やかに浮き上がっていて、印象的でした。こうしてみるとこの作品は、単なる「百合百合しいラブストーリー」であるだけじゃなくて、一種のビルドゥングスロマンでもあるのかもしれません。そのへんの要素がお話に厚みを与えていて、とても良いと思いました。