石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『バニラ―A sweet partner』(アサウラ、集英社)感想

バニラ A sweet partner (スーパーダッシュ文庫)

バニラ A sweet partner (スーパーダッシュ文庫)

女子高生版テルマ&ルイーズ

ひょんなことから銃を手にした女子高生ふたりが連続狙撃事件を起こし、警察に追われる身となるお話。性暴力がらみのやむにやまれぬ殺人から始まる逃避行であることや、ふたりの間に愛が芽生えること、次第に警官隊に追い詰められていく展開など、話の構造としては、映画『テルマ&ルイーズ』にとてもよく似ています。が、これは決してただの焼き直しなんかではなく、新しい工夫がさまざまに加わった鮮烈なお話だと思いました。細かな点でいくつか首をひねってしまった箇所もないではないのですが、女性同士の愛や、最後まで一気に読ませるパワーがそれらの欠点を上回っている良作だと思います。特にラストのあのまとめ方、好きです。

『テルマ&ルイーズ』との違い

一番の違いは、『テルマ&ルイーズ』で描かれたのは「『女を』痛めつけ搾取する男社会に対する怒り」であったのに対し、『バニラ―A sweet partner』では「『女子供を』痛めつけ搾取する社会への怒り」がテーマとなっていること。主人公ふたりを女子高生にすることで、『テルマ&ルイーズ』よりもさらに幅広い視点のお話になっており、そこがとても面白かったです。

主人公たちにハンドガンだけでなく狙撃銃を使わせた点も斬新でした。これによって空間の使い方が立体的になり、クライマックスでのサスペンスもユニークなものとなっていると思います。お話の後半がロードムービー的な逃避行ではなく、立て籠もりという形になっているのも、たぶんこの狙撃銃という素材を生かすためなのでしょうね。

さらに、同性愛要素の質と量も、はっきりと『テルマ&ルイーズ』のそれを上回っていると思います。「友情の延長」などという腑抜けた解釈が起こり得ないほどしっかりと女の子同士の愛情が書き込まれ、キスシーンもてんこもり。そのキスがまた、可愛くて色っぽくていいんですよ! よくある薄っぺらな百合萌え狙いのいちゃいちゃシーンでも、toppoiさんの名言「『レズでオナニーさせてあげるわ』式の萎え萎え絡み」でもなく、本気でこの人のことが好きなんだと伝わってくる素敵な描写でした。

やや残念だったところ

主人公たちの言動が、ところどころあまりにも浅はかすぎる気がします。特にお話の前半ではわざわざ捕まりそうな行動ばかりを呑気に繰り返しているため、彼女たちが後半で警官隊相手に見せる善戦とのバランスがちぐはぐなように感じました。

また、中谷・元川・中島の三刑事のキャラクタがあまり立っていないのも気になるところです。おっさん中谷と謎の人中島のコントラストを台詞だけでなく行動でもっと強烈に打ち出して、いっそ元川は脇に徹させた方が話がひきしまったかも、と思いました。

ラストが好きです

ただのお涙頂戴にも、わざとらしいご都合主義のハッピーエンドにも陥らない、きっちりと引き締まった良い終わり方でした。そこに至るまでの緊迫感も、とてもよかったです。

その他

レズビアンの自分は「バニラ」と聞くと反射的に「ヴァニラ・ダイク」とかを連想してしまうのですが、まさか本当にレズビアン小説だったなんてびっくりです。ちなみにこのタイトルは、(LGBT用語としてではありませんが)要所要所できちんとお話の内容に絡んでいて、そこもすごく好きです。

まとめ

いくつか残念なところもないではないのですが、全体的にはとてもよかった! 面白すぎて一気に二回通りぐらい読んでしまいました。こういうものがライトノベルで読めるなんて、いい時代だよなー。