石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

小説『ヴァンガード』(深見真、集英社)感想

ヴァンガード (集英社スーパーダッシュ文庫)

ヴァンガード (集英社スーパーダッシュ文庫)

ダンジョンRPGとガンアクションの幸福な結合(そして当然のようにレズビアンも登場)

厚さ20000メートルの謎の巨壁に囲まれ孤立した未来の東京で、迷宮となっている巨壁内部を探索する「ヴァンガード」たちのお話。ダンジョン物なのに剣と魔法ではなく銃器で戦いまくるあたりが深見汁満載で、面白かったです。また、当然のようにレズビアンのキャラクタが存在するのも感涙もの。ストーリーも、たくさんの伏線がきっちりと噛み合って結末になだれ込んでいくという緻密にして鮮やかなもので、最後のページでは思わず膝を打ちました。

レズビアンキャラについて

「今回は同性愛要素はないかもなー」と思いつつのほほんと表紙をめくったら、カバー折り返しの人物紹介からして既にこれでした。

斉藤可奈(さいとうかな)
パーティー最年少のポイントマン。同い年の彼女と同棲中。

「……わたくしが悪うございました」と深く反省し、ほくほくして本編を読ませていただきました。ちなみに作中では、可奈はちょっとした微エロなサービスシーン(もちろん相手は女のコ)でも活躍しています。同性愛者であるだけでなく、ちょっと風変わりな性格をしているところなんかも興味深いキャラです。

で、今回、「意外なところに同性愛者のキャラが」という点でちょっと思い出したのが、『ハリー・ポッター』の作者J. K. ローリング氏が「ダンブルドアはゲイ」と発言して賛否両論を呼んだこと。この発言に対するあたしの感想は「なるほど、納得。そもそも確率的に言って、あれだけの人数のキャラがいてひとりも同性愛者がいない方がおかしい」でした。さすがにキンゼイ報告の「人口の約10パーセントは同性愛者」という説こそ数字が大きすぎるとして近年批判されていますが、だとしても人口の数パーセント(数字は諸説あり)がゲイまたはレズビアンであることに変わりはありませんからね。その数パーセントを軽やかに無視して「人類皆ヘテロ」という妄想にしがみつこうとする人が多い中、この『ヴァンガード』では、わずか7人の主要キャラの中に当たり前のようにレズビアンが入ってるというのがなんだか面白かったです。

アクションについて

RPG風の設定でありながら、戦闘シーンは徹底したガンアクション。ダンジョン内での食料まで自衛隊の戦闘糧食で、たくあん(ですよね?)やオレンジスプレッドなんかが登場するあたりがマニアックで楽しすぎます。人の死に方がけっこう痛そうだったりエグかったりするのも深見ファンにはたまらないところですし、単に近距離でドンパチをするだけではなく、狙撃という視点からの読み合いや駆け引きがあるところもよかったです。

んで余談ですが、その狙撃担当の元自衛官「浅野卓美」(26歳♀)がまたいい味出してるんですよ。ショートカット美人で腕っこきで、何やら暗い過去もありそうなのに程よくアホで。泥酔して「四捨五入したら三十路だけどさ、突っ走ってるうちは青春なんだって!」と叫んでるあたりも可愛くていいなあ。どうやら年上好き(つーか、年上キラー?)らしい主人公「柊速人」(18歳♂)とこれからどうなっていくのか興味しんしんです。

ストーリーについて

「突然、謎の巨壁によって外部と切り離された東京」という設定こそ大胆ですが、ストーリーの構成はいたって緻密。特に後半部において複数の伏線がダイナミックに回収されていくところなど、とてもよかったです。とあるキャラの言動がどうも変だ、辻褄が合わない、と思いながら読んでいたら最後の最後でそれが伏線としてガツンと機能していたり、単なる導入部の雰囲気づくりのためのように見えたエピソードが二重三重の意味で重要な役割を果たしていたりで、最後までワクワクしっ放しでした。ラストシーンの「そうだったのかー!」という爽快感を味わうため、これから読まれる方には、最後のページは絶対先に見ないようおすすめしておきます。

まとめ

ゲームと鉄砲が好きな方には文句なしのおすすめ。また、レズビアンキャラがしっかり存在するのも嬉しいところ。いやあ、楽しかった!