石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

この百合がすごい! 2008

2008年にレビューした百合/レズビアンもののうち、特におすすめの10作品(順不同)のリストです。

漫画『ささめきこと(1~3)』(いけだたかし、メディアファクトリー)

ささめきこと 1 (MFコミックス アライブシリーズ)

ささめきこと 1 (MFコミックス アライブシリーズ)

ささめきこと 2 (MFコミックス アライブシリーズ)

ささめきこと 2 (MFコミックス アライブシリーズ)

ささめきこと 3 (MFコミックス アライブシリーズ)

ささめきこと 3 (MFコミックス アライブシリーズ)

胸の真ん中にきゅんきゅん来る片想いの物語。切ない1巻、甘酸っぱい2巻、そして怒涛の3巻と、どこを取ってももうたまりません。特に、3巻で涙ボロボロ流しながら主人公「純夏」が叫ぶシークエンスがすごすぎる。読んでいるこっちまで泣かされてしまう、すばらしい場面でした。もどかしくもいとおしい、胸が熱くなるような百合ラブストーリーがお好きな方なら、絶対におさえておくべき逸品。

漫画『マルスのキス』(岸寅次郎、ポプラ社)

マルスのキス (PIANISSIMO COMICS)

マルスのキス (PIANISSIMO COMICS)

とある女子高生が、美術室のマルス像にキスしていたクラスメイトの女のコに恋をするという物語です。作中にくだらない同性愛嫌悪がないことはもちろん、主人公が相手に魅かれていく過程がとても丁寧に描かれているところ、ただの初恋物語ではなく成長物語でもあるところ、そして超弩級の切なさを生み出す画力と構成力など、どれをとっても身悶えするほどよかったです。全部読み終わってから再びこの表紙を見ると、そこにこめられた深い意味に思わずぐっと来てしまいます。

漫画『オクターヴ(1)』(秋山はる、講談社)

オクターヴ 1 (アフタヌーンKC)

オクターヴ 1 (アフタヌーンKC)

売れなかったアイドル(♀)と貧乏作曲家(♀)との恋を描く物語。女性同士の恋愛ものにおける、

  • 女同士の関係は、「精神的な繋がり(笑)」が中心
  • 性愛はウジウジした(そして往々にしてホモフォビックな)片想い期間を経てからやっとありつくもの
  • 処女同士のモノガマスな関係こそ至高

などのステレオタイプを綺麗にひっくり返してみせた、非常に新鮮な作品でした。エロの美しさも、感情描写の繊細さも特筆もの。

漫画『半熟女子(1)』(森島明子、一迅社)

半熟女子 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

半熟女子 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

自分の女のコらしさがコンプレックスな「八重」と、男らしさ・女らしさをまるで気にしないスポーティーな「ちとせ」とのめちゃくちゃキュートなラブストーリー。雄弁な絵と緻密な演出で、女のコ同士の恋の喜びをこれでもかとばかりに表現した快作だと思います。可愛くっておいしそうな女体描写といい、恋の過程の丁寧なプロセスといい、ステレオタイプの扱いといい、ガチな人のあたしが「そう! そうなのよ!」とぶんぶん首振ってうなずきまくってしまうリアル感といい、どこをとってもすばらしすぎる。

小説『荊の城(上・下)』(サラ・ウォーターズ[著]、中村有希[訳]、東京創元社)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

女性同士のラブストーリー/歴史小説/ミステリ/ピカレスク小説/クライム・サスペンス等々、さまざまな読み方ができる、緻密にして濃厚な大傑作。自分はこれを「極上の冒険小説だ」と受け止めました。というのは、この小説にはどんでん返しに継ぐどんでん返し、絶体絶命の危機と決死の脱出、復讐と愛などがみっしりと詰まっており、そんじょそこらのアクション小説が裸足で逃げ出すダイナミックな面白さにあふれているからです。もちろんサラ・ウォーターズのことですからレズビアニズムの描写もばっちり(しかも添え物じゃなくメインディッシュですよ!)。波瀾万丈のレズビアン・ラブ・ストーリーが読みたいなら、何をおいてもこれを読むべきです。

小説『半身』(サラ・ウォーターズ[著]、中村有希[訳]、東京創元社)

半身 (創元推理文庫)

半身 (創元推理文庫)

レズビアニズムが縦糸と横糸をなす、美しくも強烈な物語。あらすじは、「19世紀のロンドンで孤独な老嬢(と言っても29歳なんですが)マーガレットが慰問に訪れた監獄には、ミステリアスな霊媒シライナが収監されていた。やがてふたりの間には心の交流が生まれ、マーガレットはシライナへの愛ゆえにあることを決意するが……」というもの。これがまた、同作者による『荊の城』と同じく、一筋縄ではいかない骨太の物語なんですよ。女性同士の蠱惑的なラブストーリーとも、弱者としての女性を描く社会派小説とも、また重厚なゴシック・ホラーとも受け取れるこのお話が、最後にどのような衝撃的な展開を迎えるのかは、読んだ人だけのお楽しみ。

小説『白蝶花』(宮木あや子、新潮社)

白蝶花(はくちょうばな)

白蝶花(はくちょうばな)

書き下ろし短編「乙女椿」が、それはそれは良かったです。

「どうして嫌がらないの?」
指を口の中に入れたまま、和江は尋ねた。指が口の中にあるので、千恵子は喋れない。
「嫌じゃないの?」
つづけて和江は尋ねる。相変わらず指は口の中に入れたまま。檸檬の香りが薄れ、溜息二つ分くらいの沈黙ののち、和江は千恵子の口から指を引き抜いた。唇の端に唾液の糸が引き、窓の外では益々の勢いで蝉が鳴いている。

はい、こういうお話でございます。

テレビ映画『荊の城』

荊の城 [DVD]

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あの重厚にしてエキサイティングなレズビアン小説『荊の城』の、堂々のドラマ化です。上下2枚組で計180分は長いと最初は思ったのに、途中でやめられなくて一気に観てしまいました。原作とは違うところもありますが、主題は大切に守られていますし、サスペンスも官能もしっかりと描かれていて、よかったです。

映画『四角い恋愛関係』

四角い恋愛関係 [DVD]

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結婚式を挙げたばかりの花嫁レイチェルが、式場の花係ルースと恋に落ちてしまう恋愛コメディ。いやあ、面白かった! ドロドロの不倫話には決して傾かず、最後まで皆誠実で一生懸命で、ひたすらキュートなんですよ。レイチェルの夫ヘックがいい人すぎて、気の毒でどうしようかとも思いましたけど、最後的には彼にも素敵な運命が待っていてほっとしました。ひと昔前には、レズビアン映画というと必ず誰かが絶望したり自殺したり連続殺人鬼になったりしていたのに、この映画では、結局誰も不幸にはなりません。時代はここまで来たんだなあ。