- 作者: 志村貴子
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2008/03/20
- メディア: 単行本
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恭己の成長、そして物語は新たな展開に
相変わらず、思春期女子のあぶなっかしさややわらかさを両手でそっと受け止めるような、やさしい印象の1冊でした。今回の大きな特徴をいくつか挙げるならば、
- 恭己がようやく少しだけ大人になったこと
- それによってここまでのお話に区切りがついたこと
- 新たな(でもないか)恋の予感
といったところでしょうか。また、サイドストーリーの百合話ふたつも、切なかったり鋭かったりでとても良かったです。
恭己、少しだけ大人に
1巻では一見非の打ちどころのなさげな王子様を演じ、2巻で意外な脆さと幼さを見せた恭己ですが、ここに至って彼女も少しだけ大人になった気がします。それを象徴しているのが、洞窟(江ノ島岩屋?)内でのふみとの会話(pp120-124)。実は恭己より大人なふみの容赦ない台詞の後、恭己が返す言葉が、まるで生まれたての雛みたいに弱弱しくて「かわいそうでかわいい」んですよ。あえて決定的シーンの表情を見せず、台詞だけで表現するという手法がまた心憎くて、何度も何度も読み返しました。
逆説的になりますが、ここで「弱弱しい幼い自分」に戻れたのが恭己の成長だと思います。背延びをして「求められる姿」(p111)という鋳型に自分をあてはめるのをやめて、本来の自分を受け入れたってことですもんね。すごく深読みをするならば、この場面の舞台が暗い洞窟なのは、恭己がここから新たに生まれ直すということのメタファーなのではないかと思いました。つまり、まさにこのシーンが彼女の大人へのステップの第一歩なのではないかと。
お話にひと区切り、そして新たな(でもないか)恋の予感
恭己が「ふつうの女の子」(と2巻p143で見抜いていた各務先生は偉いなあ)に戻ったことで、「恭己の恋にふみや京子が振り回される」というここまでの展開にもひとつ区切りがついた感じです。で、終盤になってクローズアップされてくるのが、実は今までにもちょくちょく出てきた、あの人からあの人への恋。本編の最後のページなんて、すごく深いですよー。女のコ同士の世界を単にフワフワと美しく描くだけではなくて、要所要所にこうした毒を入れてぐっとお話を引き締めてみせるところが志村貴子のうまさだと思います。4巻以降もとても楽しみです。
サイドストーリー「若草物語」について
「公理さんと駒子さん(1〜2)」
恭己の姉公理と、公理に片想いしているクラスメイト駒子のお話。切ねえー! 計4ページでこんなに切なくていいものかと思いました。
「織江さんと日向子さん」
2巻ラストに掲載されている「織江さんと日向子さん」の続きのお話。16ページ。2巻の方を読んだときには正直「単なるレトロ調の思春期百合話?」と思わんでもなかったのですが、これを読んだからにはもう土下座して謝ります。思春期百合どころか、すごーく懐の深いレズビアン漫画ですよこれ! 視点が鋭くてかつフェアだし、可笑しいし、ハラハラするし、切ないし、最後のオチもしみじみとよかったです。
まとめ
ここまでの恋の区切りと新たな展開への予兆の巻でした。サイドストーリーも深くてとても良いです。めちゃくちゃおすすめ。