サンバースの見どころたっぷり。キャラの掘り下げもよし
シーズン2B初回。異星の人身売買組織との戦いを軸に、モン=エルの正体が暗示されます。サンバースの見どころが多く、アレックスのキャラの掘り下げ方も絶妙。ウィンを通じて示される「強さ」の再解釈や、このご時世ならでこそ響くメッセージもよかった。
アレックスよ幸せになってくれ
このS2E9は、シーズン前半でマギー(フロリアナ・リマ)と相思相愛になったレズビアンキャラ、アレックス(カイラー・リー)にとって幸せが何を意味するのかを描く回。まずその「幸せ」部分の描写のこまやかさが特筆ものです。デートの予定をカーラ(メリッサ・ブノワ)に告げ、ふたりで女子高生のようにはしゃぐ姿や、お泊りデートの翌朝のマギーとの親密な会話、その後出勤してもキラッキラしている表情などを、あのカイラー・リーの小鹿のような瞳で縦横無尽に演じてるんですから、どこを取っても見てるだけで息が止まりそうでしたよもう。そうそう、アレックスがマギーと迎えた朝の情景については、Autostraddleのリキャップのこの形容に尽きると思います。
キュートでスウィートな部屋に、キュートでスウィートな女の子がいる、キュートでスウィートな朝。で、この後、世界を救いに行くわけよ。あのさ、これを見ながら「自分が以前からこっそり想像してみようとしていたことは、結局そう気持ち悪いことでもなかったのかも」って思ってるかもしれない10代の女の子たちのことを思うと、涙が出そう。
Just a cute, sweet morning with a cute, sweet girl in a cute, sweet apartment. Before heading off to save the world. Yaknow? I could cry thinking of the teenage girls watching this who might feel like the things they’d been secretly trying to imagine aren’t so weird after all.
まったく同感。アレックスのカミングアウトストーリーはずいぶん話題になったけれど、女性同士のカップルのこういう何気ない日常のひとコマも、ぜひティーンエイジャーに見て欲しいと思います。
とは言え、これだけで終わらないところが、実はこのドラマの真骨頂だったりもします。というのはこの後、アレックスの生育過程を背景にしたひねりがプロットに加えられ、それにより彼女の恋路も人物造形もいっそう深みのあるものになっていくから。同性愛者の内面描写が、「レズビアンなら同性の恋人ができて、周囲に差別されなきゃ即幸せだよねー。はいはいおしまい」的なやっつけ仕事で済まされていないことに安心しましたし、ひねりの部分もリアルで、性的指向を問わず多くの人がわがこととしてとらえられるものなんじゃないかと思いました。
シーズン1の時点では「仕事と妹への愛情以外ほとんど何もない」と言われていたキャラだったアレックスが、あれよあれよという間にここまで立体的になっていくさまは、まるで魔法のようです。今これほど世界中のレズビアン(だけでもないと思うけど)視聴者から「幸せでい続けてほしい」と願われているキャラもいないことでしょう、たぶん。
「怖い」と言えるウィンの強さ
愛すべきオタクのDEOエージェント、ウィン(ジェレミー・ジョーダン)を通して描かれる「男らしさ」または「強さ」の扱いが面白かったです。ウィンは今回、ガーディアンとの活動中に命の危機を経験し、ヒーローとしての活動に恐怖を感じるようになります。で、DEOの仕事で危険な異星での任務を命じられたとき、それを断るため、死にかけたことを明かしてはっきり表明するんです。「ぼくは怖い("I'm scared.")」と。
逆説的ですが、これはウィンの強さを示すものだとあたしは思いました。従来的な価値観で言えば、恐怖や不安を表明することは「男らしくない」、または「弱い」ことなのかもしれません。しかし、己の弱さを押し隠すために怒りによるアドレナリン・ラッシュにすがって他害的になったり、ひとりで黙り込んで自滅したりしするという「男らしさ」の害を、あたしら現代人はさんざん見てきたはず。怖いという感情と誠実に向き合えるウィンの方が精神的によっぽどタフで、かつ健康的であるように、あたしには感じられました。
この後結局意を決して異星に赴いたウィンがオタク知識(元ネタはスタートレック)で己を鼓舞し、活躍を遂げるという展開も面白かったです。おそらくこの回のシナリオは、ウィンというキャラを使って、ステレオタイプではない強さを持つ新しいヒーロー像を提示しようとしているのだと思います。
今だからこそ必要な台詞
異星でパワーを失い、他の地球人とともに一室に閉じ込められたカーラ/スーパーガールが、不安がる人々にこう言う場面が印象的でした。
「みんな怖い気持ちだってことはわかってる。でも、ここから出る道を見つけるのよ。心配しないで」
"I know you are all scared. But we're going to find a way out of here. Don't worry."
それから、モン=エルにこう告げる場面も。
「あなたは戦い続けるって信じてる。よその世界で動きがとれなくなっていようと、パワーがあろうとなかろうと、絶対に屈したりしないって」
"I believe you keep fighting. Whether you're stuck on another world, whether or not you have your powers, you never give in.
ドラマのもともとの方向性から言って、これ絶対、米国の現在の状況下で不安を感じている人々に対するメッセージですよね。沁みるぜ。
ちなみにカーラ役のメリッサ・ブノワ(米国での発音だとベノイスト)の、先日のウイメンズマーチでの姿はこちらです。訳:「ヘイ、ドナルド、あたしのプッシーをつかもうとするのはやめときな。――そいつは鋼鉄製なんだからね」。
余談1
アレックスとマギーのTシャツにまつわるエピソードには、いちレズビアンとして思わず「あー、あるよね、こういうこと」とニヤニヤさせられてしまいました。同時に思ったのですが、体格的に彼氏にTシャツを貸せない(人が多いであろう)ヘテロ女子の皆さまには、あの感覚というのはどこまでわかるものなんでしょうか。人にもよると思うけど、ひょっとしたらマギー視点に切り替えて観たりするの?
余談2
2017年2月1日より、Huluで『スーパーガール』シーズン1が視聴可能になっています。シーズン1ではまだはっきりしたレズビアン要素はほとんど出てきませんが(それっぽい雰囲気はあるんだけどね)、シーズン2の日本での放映/配信前の予習も兼ねてぜひどうぞ。
まとめ
なんのご褒美ですかと思うぐらいサンバース(アレックスとマギーのカップル)の名場面が多いし、アレックスの内面描写も丁寧だしで、これまでシーズン2の再開を待ち続けていた甲斐がありました。ウィンの活躍もよかった。細部の緻密さに比べると、メインプロットがややあっさりしすぎている(敵が弱すぎるなど)ようにも感じられましたが、それでもなお今こそ必要な物語だと思います。
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