石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『トランジスタティーセット 〜電気街路図〜(1)』(里好、芳文社)感想

トランジスタティーセット ~電気街路図~ (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

トランジスタティーセット ~電気街路図~ (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

変わりゆく秋葉原の、あったかい微百合コメディ

「電子部品街としての旧秋葉原VSオタクの聖地の現秋葉原」という対比構造を生かしつつ、そこに生きる人々を優しく描き出すコメディです。あたたかな目線と、新旧どちらの秋葉原をも否定しないバランス感覚が心地よく、特に連作「万世橋駅で逢いましょう(前・後編)」にはじわりと泣かされてしまいました。百合ものとしては「女子高生とメイドと小学生のマイルドな三角関係」という構図があり、この3人のうち特に小学生「さいり」の想いが可愛らしくてよかったです。

電子部品街VSオタクの聖地

主人公の女子高生「半田すず」は、祖父の後を継いで昔ながらの部品店「半田無線」を切り回す機械オタク。そんなすずが何年かぶりに再会した幼なじみの「みどり」はなんとメイド喫茶のメイドになっていた、というのがこのお話の発端です。ここで面白いのは、「伝統を守れ」と無線街を一方的に持ち上げるでも、「外国にも認められたポップカルチャーの街!」と新しいアキバをひたすら賞賛するでもなく、その両方をいとおしむ視線。時の流れを惜しみつつも、変わりゆく秋葉原の街とそこに住む人々を大切に大切に描いていく、というスタンスの作品なんですよこれは。

ちなみに、新旧ふたつの秋葉原を大切にする姿勢がもっともよく表れているのが、前述の「万世橋駅で逢いましょう(前・後編)」。しみじみとした良いお話でした。作中で方丈記なんかを引用しつつも、決して無常観に陶酔して終わりではないところがねー、たまらなくいいんですよ。

微百合な三角関係

さいりはすずを慕って商店街に入りびたっている女子小学生。大人びた言動とは裏腹に、突然現れたみどりに嫉妬して「半田のバカー!」と怒り出したりするところがやたらと可愛いです。第三者からすずへの想いを指摘されてカッとなるところ(p. 57)なんかもキュート。鈍感なすずはさいりにそこまで慕われていることにまったく気づいていないのですが、だからこそpp. 70 - 71の微妙な会話のすれ違いなんかが心憎くて、ニヤニヤさせられてしまいました。

一方、みどりもまたすずにべったりなのですが、こちらはもっと友情寄りかも。ただしこの人、外国から突然秋葉原に帰ってきた理由が

好きな人と自由に自分のやりたいことをする

ため(p. 119)であるらしく、またその「好きな人」というのがどう考えてもすず(いや、友情の範疇だとは思うんですが)なんですよね。このへんの伏線が今後どう回収されていくのか、楽しみです。

ちなみに総受け状態のすずにはまったく恋愛感情がなく、お話全体は今後も友情百合路線で進行していくものと思われます。でも、それはそれ、これはこれ。大好きなすずを取られそうになってやきもきするさいりの姿や、眠っているすずに下着姿で抱きつき「おはよーございますご主人様ー♥」とやらかすみどりの言動を見ているだけで十分美味しい作品なんじゃないかと思います。

まとめ

秋葉原という街を時間の流れごと大切に包み込む、ハートウォーミングなコメディ。微百合な三角関係も可愛らしく、お好きな方ならごはんが三杯いけるかと。おすすめです。