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小説版より百合百合しい近未来ミステリ
京極夏彦氏による同名の近未来ミステリを漫画化したもの。面白かったです! 小説版の力強いテーマはそのままに、いくつかの設定と演出を改変してよりわかりやすく、かつ漫画的に料理してみせた傑作だと思います。メインキャラ2名の間の百合っぽさが激増していて、それでいて「百合でござい」というあざとさが皆無なところもよかった。原作とはまた違った結末もナイス。
テーマについて
『ルー=ガルー』の舞台は、テクノロジーの発達により人と人との物理的接触(リアルコンタクト)が極端に減った近未来。人間はゼロ歳から支給される「端末」で完璧に管理・監視されつつ、あたかも「食物連鎖の鎖からはずれてゲダツした」かのように、合成食物だけを食べて暮らしています。これは、そんな社会で偶然連続殺人事件に巻き込まれた少女たちが、完璧なはずの世界の嘘に気づく物語。緊迫感あふれるストーリーの中で、小説版と共通する「人は動物でしかない」「しかし、それを知ったところで100パーセント動物の世界に戻れるわけではない」というほろ苦いテーマが力強く打ち出されており、とてもよかった。
改変部分について
過去のウイルス災害「パイド・パイパー」が設定されているところを始めとして、小説とはいくぶん違っているところがあります。でも、それがほとんど気にならないどころか、むしろこちらの方が面白い部分もあると感じました。たとえば来生律子や中村雄二の立ち位置などが、それです。コミック版の方が律子の味のある性格が生かされていますし、雄二というキャラにも漫画らしい迫力と奥行きが加わっていて、読み応えがありました。あと、何度か登場する「赤ずきんちゃん」というモチーフがタイトルと響き合い、ゾクリとするような効果を上げているところもよかったです。百合っぽさについてもずいぶん手が加えられており、漫画の方が数段濃くなっているのですが、それについては後述。
唯一「これは変えない方がよかったのでは」と思ったところは、学校の設定。漫画では、児童たちは小説よりも頻回に(毎日?)学校に行っていることになっているようで、これだとメインキャラにとっての物理的接触(リアルコンタクト)の持つ意味が弱くなってしまうと思うんです。そこだけはちょっと残念。
百合部分について
5巻が最高に濃かったです。小説版との大きな違いは、まず葉月だけでなく歩未の側の感情まで鮮やかに描かれていること。これがまた違和感がなくて、熱くて、説得力もあっていいんですよ。それから、ふたりがきちんと相思相愛になること。いわゆる告白してつきあってどうのこうのみたいな紋切り型のラブストーリーとは全然違うお話ではありますが、あれはもう「相思相愛」と呼んじゃっていいと思うんですよあたしは。
愛と絆をがっつり描きつつも、百合ものにありがちなわざとらしいいちゃこら描写がないところもよかった。静かな手つなぎひとつであれだけの百合百合しさをかもし出してみせる演出の妙に、乾杯。
結末について
これは原作と相当異なっています。ちょうど『マイ・フェア・レディ』の舞台バージョンと映画バージョンの違いのようなもので、どちらもアリだとあたしは思いました。ひりひりとした痛みを残す小説版のオチも、劇的な大団円をみせる漫画版の終わり方も、甲乙つけがたいかと思います。個人的な好みで言うなら、漫画版の方に軍配が上がるかな。なんと言ってもラブいし、「カメカイジュウ」のビジュアル効果もすばらしかったし。つか、「クラッシャー美緒」が好きなんですよあたしは。
結末に関してひとつ面白いのが、小説版も漫画版も、両方とも、
という共通の1文で物語の幕が閉じられることです。「思いっきり遠くに投げた小石に向かって、ふたつの違うルートで全力疾走してみせた」とでも形容すべき2作品であり、双方の華麗な走りっぷりにただただ脱帽。そういうことになっている。
まとめ
小説版のテーマを忠実になぞりつつ、漫画的なわかりやすさと面白さを盛り込み、かつ葉月と歩未の関係をよりラブくしてみせた逸品。上では書ききれなかったけど、橡(くぬぎ)刑事と不破カウンセラーの大人ペアがお話をひきしめているところもよかったです。甘ったるいだけの百合ものが嫌いな方に、すごくおすすめ。
なお蛇足ながら、百合目当てで『ルー=ガルー』を読むのであれば、漫画→小説の順に読んだ方がいいんじゃないかと思います。小説の方は、京極夏彦らしい精緻で饒舌な文章が計582ページもみつしりと詰まつてゐるため、わずか数か所の百合っぽい場面(これはこれで、薄口ではありつつも滋味豊かなんですが)にたどりつくまでが大変です。漫画でだいたいの流れを押さえてから小説に手をつけた方が、たぶん楽。