石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

漫画『花宵道中(1)』(斉木久美子[画]/宮木あや子[原作]、小学館)感想

花宵道中 1 (フラワーコミックスアルファスペシャル)

花宵道中 1 (フラワーコミックスアルファスペシャル)

あの切なさをそのままに、『花宵道中』をコミック化

宮木あや子さんの小説『花宵道中』のコミック版です。1巻には第1部「花宵道中」全部と、第2部「薄羽蜻蛉」の冒頭部分が収録されています。原作そのままの切なさに、漫画らしいビジュアル表現の力も加わって、読みやすいのにぐっとくる時代物に仕上がっていると思います。なお、原作収録の百合話「雪紐観音」はなにぶん最終話(第5部)とあってまだかすりもしませんが、んなこたこの際、どうでもいい。哀しくも美しい恋物語として、原作ファンにも、原作未読の方にもともにおすすめです。

原作と同じところ、違うところ

ストーリーやキャラ立て、そしてキャラクタの心情等は原作の優れたところががそのまま生かされています。読んでいて違和感はまったくなく、ぐいぐいと物語に引き込まれてしまいました。半次郎の色気や朝霧の地味な美しさ(そして、だからこそいっそう際立つ道中場面の華麗さ)、茜の可愛らしさなど、どれもみなよかったです。官能描写の上品さも小説版のイメージそのままで、いろいろ納得しました。

一方、コミック版オリジナルの表現もたくさんあり、それがまたいいんですよ。たとえば小説版で朝霧が恋に落ちる場面に、

その蔓が放つ熱で痺れたように、絡んだ指を振り解けない。見つめられ、熱は雫のように溜り、朝霧の身体の真ん中には炎の柱が立つ。

なんていう鮮烈な文章がありますが、これをそのまま絵にするわけにはいきませんよね。斉木久美子さんはこれを、表情と、写真でいうところのクロスフィルタをかけたシルエットとで鮮やかに再現してみせています。これだけで、朝霧が身を焦がすような恋に落ちたことがすとーんと伝わってくるんですよ。

他にも、朝霧がある衝撃的な知らせを受ける場面で、原作には

……息が止まり、朝霧の胸に大きな穴が開いた。ふぅっ、と、腹を押されたような声が漏れた。

とあるところがすごかったです。コミック版ではこれを、朝霧の横顔の表情ひとつでやってのけるんです。ものすごい迫力で、見ているこちらの息が止まりそうでした。このように、小説を逐語訳的に絵に落とし込むのではなく、本質をつかんで大胆に漫画的表現に切り替えていくところが本当にいいなあと思いました。

まとめ

美しいわ切ないわ、漫画らしい視覚面のインパクトもあるわで、たいへん楽しく読みました。2巻以降も楽しみです!