盤石の展開。百合も快調
美少女麻雀百合漫画、第5巻。お話は県予選決勝、つまり咲vs衣の前半まで。闘牌はいよいよオカルト色を増し、ビジュアル表現も派手に。一方、ストーリーの進め方は盤石そのもので、百合も複数カップルが活躍中です。
ストーリーは基本に忠実
5巻まで読み進めてきて思うのが、『咲-Saki-』のストーリーはクリストファー・ボグラーが神話学者ジョーゼフ・キャンベルの説を元に提唱した「英雄の旅路」というストーリーテリングの骨組みにきれいに当てはまっているということ。ちょっとここまでの咲の旅路を、「英雄の旅路」の枠組み*1を使って振り返ってみましょう。
- 1. 日常世界(ordinary world)
- 場になじめないヒーローとしての咲。
- 2. 冒険への誘い(call for adventure)
- 和「もう1回…もう一局打ってくれませんか…」
- 3. 冒険の拒否(refusal of the call)
- 咲「私は麻雀 それほど好きじゃないんです」
- 4. 賢者との出会い(meeting of the mentor)
- 久「次は勝ってみなさい」
- 5. 戸口の通過(crossing the first threshold)
- 咲、麻雀部に入る。
- 6. 試練、仲間、敵(tests, allies, enemies)
- 藤田プロとの戦い、合宿、県予選を通じて仲間と敵を知っていく。
- 7. 最も危険な場所への接近(approach to the immost cave)
- 衣と戦い、恐怖に直面。
- 8. 最大の試練(ordeal)
- 咲、「勝てるわけないよ……」と絶望。
みごとなまでにセオリー通り。
5巻冒頭で改めて咲と姉との血縁が強調されているところもポイントですね。この作品が1種の貴種流離譚(モノミス)という神話的な、つまり人類の心を揺さぶりやすい物語の類型(『ロード・オブ・ザ・リング』も『スター・ウォーズ』も『ハリー・ポッター』シリーズもみんなモノミスであることを思い出してください)を踏襲していることが、ここで再確認されているわけ。こういう基本中の基本を外さないからこそ、この漫画はここまでヒットしたんじゃないかな。
なお、これをほとんど女性キャラだけでやってるってところが『咲 -Saki-』の新しさであり、すごさだと思います。おそらくこの先、キャンベルの言う「父との和解」(Atonement with the Father)が本作では「姉との和解」になるはずで、だからこそ宮永照はあそこまで恐ろしげなオーラをまとったキャラとして描写されてるんじゃないでしょうか。"Father"は究極の力を持つ存在であり、スターウォーズで言うところのダースベイダーですから。
漫画的表現あれこれ
優希「ここまでリンシャンリンシャンチャンカンハイテーハイテーだじょ?」
和「偶然にしてもヒドすぎます…」
という会話(p. 79)から見てもわかる通り、闘牌シーンはほとんど超能力バトルと化しています。ビジュアル表現も派手さを増し、嶺上開花のバックに百合の花は咲き乱れるわ、ハイテイで全員海に沈むわ、衣は既に人外だわでもう大変。
だからと言ってこれらの表現を「リアリティがない」と受け取るのはまた違うような気がします。思うにこうした描写は「登場人物の主観を通した現実」なんであって、そこを思い切りよく追求していくところがこの漫画の強みなのでは。
5巻の百合いろいろ
ゆみから桃子への直球の殺し文句と、その直後の「ここではやめろ~っ」というあの叫びに、思わずにやにやさせられました。ここじゃなければいいんですか先輩。咲と和は今回も揺るぎなき信頼関係を見せ、4巻同様手と手の接触が決めゴマで使われています。華菜と美穂子キャプテンは、互いへのいじらしい気遣いが光る先輩・後輩百合。
どれもいわゆる「友情以上恋愛未満」とも解釈しうる(別にそれが正解とも思いませんが)範疇の描写ですが、これはこれであり。1巻の感想でも書きましたが、あらゆるバディものは「バディの仮面をはがせばラブストーリー」ですからね!
まとめ
着々と咲の「旅」を進め、大きな試練に立ち向かわせる巻。物語の枠組みがしっかりしているので、派手派手しい演出も安心して楽しむことができました。百合も無理なく話に組み込まれており、よくまとまった1冊かと。
- 作者: 小林立
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2009/03/25
- メディア: コミック
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