2015年1月7日、ネパールが、パスポートに男性でも女性でもない「サード・ジェンダー(第3の性)」の項目を追加すると発表しました。
詳細は以下。
Nepal to issue passports with third gender for sexual minorities | Reuters
同国では2007年、最高裁がサード・ジェンダーを認める判断を下しており、2011年からはセンサス(国勢調査)にもサード・ジェンダーの項目が設けられています。今回のパスポートの変更も、この最高裁判断を受けてのことだそうです。
ネパールのお隣のインドでも2014年、最高裁がサード・ジェンダーを認め、最近サード・ジェンダーの市長さんも誕生しましたよね。パキスタンも2009年、ヒジュラを「男」でも「女」でもないジェンダーとして認めています。ロイターによれば、オーストラリアやニュージーランドでも今やパスポートには「男」「女」「不確定」(indeterminate)の3つの項目が設けられていて、そこから選べるようになっているとのこと。
タイムリーにも、ちょうど今この本を読んでいるところでしてね、あたし。
- 作者: 加藤秀一,海老原暁子,石田仁
- 出版社/メーカー: ナツメ社
- 発売日: 2005/03/01
- メディア: 単行本
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冒頭のあたりになぜ性別を「男」「女」に二分するのがヘンかという説明があるのですが、図解も含めてたいへんわかりやすくて面白いんです。箇条書きでざっとまとめると、こんな話がされてます。
- 性器の種類は二分できない
- そもそも胎児期のヒトは皆、「将来精巣にも卵巣にもなりえる原始生殖腺と、前立腺に変化するウォルフ管と、子宮に変化するミューラー管を合わせ持」っている
- 出生児に男女のどちらにも分類できない外性器を持って生まれてくる人は一定数いる
- 性腺や染色体の性も二分できない
- ヒトの体細胞の染色体は、46, XX型や46, XY型だけではない(45, Xや47, XXY、47, XXYなどさまざまな染色体型を持つ人がいる)
- 性別の分化を促すSRY遺伝子はY染色体上にあるが、染色体の転座により、性染色体が女性型XXでもSRY遺伝子を含んでいることがある(XX男性)
- 性染色体が通常のタイプであっても、XXなら必ず女性的な身体に、XYなら男性的な身体に成長するとは限らない(副腎性症候群など)
読めば読むほど、人間を「男」「女」のたった2つのカテゴリでとらえようというのがいかに無茶なことであるのかよくわかります。性別やジェンダーの話になると男女の区別なるものを「生物学的に」正しいと主張される方がどこからともなく湧いてくるものですが、本当に生物学的な視点というのはこういうものですよね。もちろん公的書類に3つめのジェンダーを追加するだけで何もかも解決するというわけではありませんが、既存の「男」「女」のカテゴリーにあてはまらない/あてはまりたくない人の存在を無視してしまうことの暴力性というのは、もっと広く認識されていいのでは。
なお、Gay Star Newsによれば、ネパールのLGBTI団体「Blue Diamond Society」の創設者Sunil Pantさんは今回の動きを歓迎し、以下のように話しているとのこと。
的確な身分証明が正式に承認されれば、他の全体的な差別の多くが消えるでしょう。サード・ジェンダーたちは教育を受ける機会を得て、仕事に応募したり、開業したり、旅行したり、財産を所有したりできるようになるでしょう。
'Once the correct identification is formalized, a lot of other systemic discrimination will fade away and third genders will have access to education, they can apply for jobs, open businesses, travel and own property.'
そう、単なるパスポート上の記載だけの問題じゃないんです。人の一生にもかかわる話なのよ、これ。