「体外受精児は『合成のニセモノ人間』? D&Gデザイナーの発言に批判殺到」の続報。2015年3月19日、ロンドンのD&G店舗前で、ゲイの権利運動家たちが同社に抗議しました。イタリアの政治家やマドンナも同社への批判コメントを発表しています。
詳細は以下。
Pictures: Protest outside Dolce and Gabbana’s London store · PinkNews
ロンドンで約100人が抗議
ことのおこりは、イタリアのファッションブランド「ドルチェ&ガッバーナ(D&G)」のドメニコ・ドルチェ氏とステファノ・ガッバーナ氏が、「体外受精児は"synthetic"(『合成の/偽物の/人工の』意)」「父親と母親の揃った『伝統的な』家族だけが家族」などと発言したこと。これに怒ったエルトン・ジョンが同社のボイコットを呼びかける一方、ロンドンでは約100人のゲイ活動家がオールド・ボンド・ストリートのD&G前に集まり、「ホモフォビアはファッショナブルじゃない」「家族を作るのは愛」などと訴えました。
At #DolceAndGabbana protest in London. Boycott #D&G #BoycottDolceGabbana @QXMagazine @pinknews @gaystarnews pic.twitter.com/m3LwLPWUD3
— Peter Tatchell (@PeterTatchell) 2015, 3月 19
At #DolceAndGabbana protest in London. Boycott #D&G #BoycottDolceGabbana @QXMagazine @pinknews @gaystarnews pic.twitter.com/vajsmN02pE
— Peter Tatchell (@PeterTatchell) 2015, 3月 19
動画はこちら。(音量注意)
この抗議活動を主催したのは、ピーター・タッチェル・ファウンデーション(The Peter Tatchell Foundation)とプラウド・ダイヤモンド・グループ(Proud Diamond Group)というふたつの団体。前者の代表、ピーター・タッチェル氏は以下のように話しています。
ステファノ・ガッバーナがゲイペアレンツに反対するのは偽善的です。彼は2006年、人工授精と代理母で子供を持ちたいと表明していたのですから。二重基準のとがめはまぬがれませんよ。
It is hypocritical for Stefano Gabbana to oppose gay parents, given that in 2006 he expressed a desire to have a child via artificial insemination and surrogacy. He’s guilty of double standards.
確かに9年前、彼はイタリアの新聞に「血のつながった子供が欲しい、自分の精子が実を結んだ、人工授精でもうけた子供を。愛していない女性と性交することは、自分にとっては納得のいかないことだから」と話していたらしいんですね。女性の友人に代理母になってくれないかと打診までしていたのだそうで、それが今になってゲイ・ファミリーを否定するのはおかしいじゃないかというわけ。
タッチェル氏のコメントはさらに続きます。
あれらのコメントは子供を持つ同性カップルだけでなく、何千組もの異性愛者カップルを含む、不妊治療の助けを借りて子供をもうけたすべての親たちを攻撃するものです。
These comments are not only an attack on same-sex parents but on all parents who’ve had children with the aid of fertility treatment, including thousands of heterosexual couples.
そう、ここ重要だと思うんですよ。実際、たとえばお父さんが精巣がんで、放射線治療の前に保存しておいた冷凍精子で体外受精をして生まれた人だっているわけで、ことはホモフォビアだけの問題じゃないんです。
マドンナ、見解を発表
以前ドルチェ&ガッバーナの広告に出ていたマドンナも、3月19日にInstagramでコメントを発表。「どのようにこの地上に、そして家族のもとにやってこようと、すべての赤ちゃんには魂があります。syntheticな魂なんてありません!!」
イタリアのオープンリー・ゲイの政治家語る
Gay Star Newsによると、イタリアに2名いるオープンリー・ゲイの政治家のうちのひとり、Nichi Vendola氏は、同国の週刊誌「Chi」に対し以下のようにコメントしたそうです。
「彼ら(ドルチェ氏とガッバーナ氏)は特権階級にいるため、ホモフォビアで殺される人がいて、権利が不十分なために多くの人々が苦しんでいる国での発言がどのような意味を持つのかよくわかっていないのだろう」
I think that from their lofty social rank they don’t really understand what it means to say to live in a country where homophobia kills and the deficit of rights weighs on a lot of lives,'
一方D&Gは
D&G側の、ボイコットに対する反応を時系列で追ってみました。
- 3月15日、ドメニコ・ドルチェ氏が「ほかの選択についてとやかく言いたくて話したことじゃないんだ。ぼくたちも自由と愛を信じてるんだよ」と発言
- 一方ステファノ・ガッバーナ氏はエルトン・ジョンを「ファシスト」と攻撃した後そのコメントを削除し、3月16日、今度は「無知」「権威主義的」と非難
- 同3月16日、ガッバーナ氏がInstagramにて「私はD&G」(『私はシャルリー』の真似らしい)と主張
- 3月17日、CNNの取材にて、
- ドルチェ氏「自分はあらゆる世界とあらゆる文化を尊敬している」「どうとでも思えばいい。もうたくさんだ("Basta!")」
- ガッバーナ氏「わたしは伝統的な家族を信じている。わたしたちはゲイカップルを愛している、ゲイが養子を迎えることを愛している、何でも愛している。ドメニコは自分の私的見解を述べただけ」
雑感
複数の記事を追っていて思ったのですが、D&G、1度も謝罪してないよね? 「あらゆる世界や文化をリスペクトしているから」、「伝統的家族を信じているから」、「私的見解だから」、自分たちは体外受精児を"synthetic"と呼んでもいいのだ、それを批判するのは表現の自由の侵害だという自己正当化しかしていないように見えます。
マドンナがInstagramで声明を出したのも当然。この状態のD&Gを支持したら、あるいはただ黙って見過ごしたら、ゲイ・アイコンとしての自分の立場が一気に失墜するとわかっているのでしょう、彼女は。
ちなみに昨日引き合いに出したバリラの場合、以下のような火だるまルートをたどっています。
- 2013年9月、社長がラジオで「ゲイカップルは我が社の広告に出さない。我が社は伝統的家族を好む」「嫌ならよそのパスタを食べろ」と発言
- 数時間以内にハッシュタグ「#boicotta-barilla」でボイコット始まる
- 翌日社長が「『傷ついた人がいるなら』謝罪する」「家庭内での女性の中心的役割を強調したかっただけ」と発言
- この発言が「謝罪になってない("non-apology apology")*1」「女性に対するステレオタイプ」とさらに炎上
なぜボイコットされたのかわかっていないと初期対応に失敗するという好例ですが、D&Gの場合は謝罪すらしないまま「伝統」とかなんとか言っているので、下手をすると鎮火にもっと時間がかかるのでは。
ちなみにバリラは、社長がその後もう1度改めて謝罪し、さらに会社に多様性委員会を設け、反差別ポリシーや従業員のLGBTパートナー/配偶者への待遇などを充実させて、翌年HRCの平等指数で満点を取るというかたちで問題を収束させました。D&Gにまったく同じことをしろとは言いませんが(謝罪しないのも、体外受精児を"synthetic"と呼び続けるのもまた彼らの自由です)、このままだと少なくともオスカー授賞式等でD&G製品を身につけるセレブはいなくなっちゃうのでは。見ててだんだん痛々しくなってきたので、彼らにいいアドバイザーがついて、せめてこれ以上事態をこじらせないようにしてくれるといいなと思います。