石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

史上初「トランスジェンダーのビール」登場 性別を変えるホップの花使用

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スコットランドの地ビールメーカー「ブリュードッグ」(BrewDog)が、雌から雄へと性別が変わる品種のホップを使って「トランスジェンダーの」ビールを作りました。商品名は"No Label"。利益は全額トランスの若者支援のために寄付されます。

詳細は以下。

It's Here, It's Queer, It's ... Trans Beer? | Advocate.com

元記事の説明をする前に、まずホップの性別についておさらい。サッポロビールのWebサイトの、この説明がわかりやすいと思います。

ビールに使われるのは雌株のみ

ホップはアサ科の宿根性多年生植物です。雄株と雌株が別々になっており、ビールに使われるのは球花(きゅうか)と呼ばれる雌株の花です。 ホップは受精するとその苦味や、香りが劣化するため、雄株は全て排除し、受精させないようにします。

ブリュードッグがNo Labelをつくるために入手した「ジェスター」というホップは、成長するうちに自然に性別が変わりやすいという特徴があるのだそうです。一般的には雄に変わったホップは捨てられてしまうのですが、同社はビールに「多様性を加えるため」、この性別が変わったホップを一定量使用してNo Labelを醸造したとのこと。以下、公式サイトより引用。

No Labelは世界初の、「既存の性別の枠組みにあてはまらない、トランスジェンダーのビール」です。このアルコール度数4.6パーセントのケルシュ(訳注:ドイツのケルン地方で醸造されているビールの一種)は、収穫以前に雌から雄へと花の性別が変わったホップを使用して醸造されています。こうした花を使ったのは、ビールも人間と同じく何でもなりたいものになれて、そのことを誇りにできるということを強調するためです。。

No Label is the world’s first ‘non-binary, transgender beer’ designed to reflect the diversity of the area and champion inclusivity. This 4.6% ABV Kölsch has been brewed with hops that have changed sex from female to male flowers prior to harvest. We have used these to emphasise that, just like humans, beer can be whatever the hell it wants to be, and proud of it.

このビールは LGBTQI+のイベントオーガナイザー「クィアレスト・オブ・ザ・クィア」(Queerest of the Queer)との提携で開発されたもので、利益は全額トランスジェンダーの若者たちの支援のために使われるそうです。

さてこのNo Label、利益をチャリティーに寄付するということ自体は非常にいいと思うんですが、気になる点がふたつあります。まずひとつは、トランスジェンダーとはその名の通りジェンダー(こころの性)が大きな要素を占める事柄であるはずなのに、このビールではホップの性別(からだの性)の変化をもってして「トランスジェンダー」と称されていること。これではかえっていらない誤解を招いてしまう可能性があるのでは。

もうひとつ気になるのは、ブリュードッグは2ヶ月前にリリースしたCMがトランスフォビックだとして批判を受けた会社だということ。このCMの内容は、「困窮した男性ふたりがお金を得るため女装の売春婦姿で街に立ち、道行く人に嘲笑される」というもので、トランス女性やセックスワーカー、ホームレスの人々をあざけるものだとして2万人以上の人からボイコットを表明されました。しかも、こうした批判に対する創業者の謝罪が、「何の意図もなかったことに一部の人が腹を立てたことは残念」という、ぜんぜん謝罪になってない言い回しだったんですよ。その舌の根も乾かぬうちに、なんだかズレた「トランスジェンダー」観で多様性を強調されても、全面的には信用しがたいと思います。

No Labelは2015年11月4日からロンドンで発売され、公式オンラインストアでは日本からも注文できるようです。しかしながら、上記のようなわけで、今のところあまり積極的に飲んでみようという気にはなれません。この会社が性的マイノリティーを積極的に雇用し、差別を禁止する社則を作り、福利厚生をシスヘテロ従業員とまったく同じにしてHRCの企業平等指数で満点を取るぐらいのところまで行ったら、ちょっとは信用してもいいかも?