石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

アメリカン・アパレル、LGBTQAのAを「アライ」(Ally)のAとし批判を浴びる

American Apparel
American Apparel / JeepersMedia

米国の衣料品メーカー、アメリカン・アパレル(American Apparel)が、「プライド'16コレクション」として発売したトートバッグのデザインで、LGBTQAのAを「アライ」(Ally)のAとしたことで批判を浴びています。

詳細は以下。

Some People Are Pissed Off With American Apparel For Using The Term "Ally" On Its Pride Bag

問題のトートバッグの写真はこちらです。

トートバッグに踊るレインボーカラーの文字は、"Lesbian/Gay/Bi/Transgender/Queer/Ally"(レズビアン/ゲイ/バイ/トランスジェンダー/クィア/アライ)。でもちょっと待って、「LGBTQA」の「A」っていったら、AセクシュアルやAロマンティックやAジェンダーのことじゃなかったの? Aがアライ「も」含むとする解釈(例1例2例3)もありますけど、アライ「だけを」示すとするのは変すぎない?

あ、ここでいちおう用語解説しておきましょうかね。ここで言うアライ・Aセクシュアル・Aロマンティック・Aジェンダーとはだいたい以下のような意味だと思ってください。

  • アライ(Ally):「一般的に非LGBTで、LGBTの人々の権利を支持し、守る人」*1
  • Aセクシュアル(Asexual):「誰に対しても性的に惹かれることがない人」*2
  • Aロマンティック(Aromantic):「人に対して恋愛感情を殆ど、または全く感じない人」*3
  • Aジェンダー(Agender):「特定のジェンダーを持っているという自認がない人」*4

"Asexual"と"Aromantic"は、日本だとなぜか「アセクシュアル(アセクシャル)」「アロマンティック」と発音する人が多いようです。英語圏だと「エイセクシュアル」「エイロマンティック」という言い方のほうが主流だと思います。"Agender"も、英語だと「エイジェンダー」。(用語解説ここまで)

上記トートバッグを含む「プライド'16コレクション」は、アメリカン・アパレルがLGBT人権団体「Human Rights Campaign」(HRC)と「The Ally Coalition」(TAC)との提携で開発したラインナップなのだそうです。ひょっとしたら後者の顔を立てるためにバッグに「アライ」の表記を入れたのかもしれませんが、だからと言って一般的に「A」が表すとされている性的マイノリティ(それも、ただでさえ『L』『G』『B』『T』より不可視化されやすいマイノリティ)たちを無視してアライだけに「A」を代表させるのは何かヘンなのでは。いったい何のための「プライド」コレクションなのよ。

そう思ったのはあたしだけではないようで、Instagramには以下のようなコメントが多数つけられていました。

まるで「ヘイ、おれはすっごくきみらを支援してるぜ。どれだけ支援してるかわかる? 今説明してあげよう、おれの名前はここに載ってるんだ、おれがどんなにきみらを支援してるか、みんなが見られるようにね!」とか言ってるみたい。

like "hey I totally support you. see how much I support you? I'm giving you expression but my name is on it so people see how much I support you!"

そのAはAセクシュアルを表すんだ

THE A STANDS FOR ASEXUAL

うっわー、存在を消して「アライ」と入れ替えることでAセクシュアル/Aロマンティック/Aジェンダーを無視するってやり方だ。わたしたちをこれまで以上に消し去られた/忘れられた存在にしてくれてありがとう。

Wow way to give Asexuals/Aromantics/Agenders a cold shoulder by making them non existent and replacing them with "allies". Thanks for making us feel even more erased/forgotten.

あなたたちがわたしのセクシュアリティを消しやがって、AセクシュアルのAをアライと入れ替えたとわかって何よりです

Good to know my sexuality is fucking erased and you replaced the A for ASEXUAL with Ally

こうした批判を受けてか、アメリカン・アパレルはその後「当社はAセクシュアル、パンセクシュアル、オムニセクシュアル、Aジェンダー、ジェンダーフルイド、ジェンダークィア、そしてそれ以上を含めた性的指向の連続体全部を尊重しております」とする見解をTwitterで発表しています。その言葉に偽りはないにしても、少なくともこのトートバッグに関しては、迂闊だったとのそしりは免れないのでは。なぜHRCやTACが止めなかったのかが不思議ですが、ひょっとしたらデザインの監修やアドバイスまではしてなかったということなんでしょうかねえ。

社会通念上標準的ではないとされるジェンダーやセクシュアリティを持つ人々の表記方法というのは本当に難しくて、アルファベットの頭文字を使う("LGBT"、"LGBTQ"、"LGBTQA"、"LGBTQIAAP"、"LGBTs"、"LGBT+"等々)方式には限界がある(グループ分けがコミュニティを分断させる/アルファベットをいくら並べてもきりがない等々)と以前からよく指摘されています。でも、だからといってこれらの一文字一文字がどういう意味をこめてどう使われてきたかという経緯を軽んじていいというものではないと思うんですよ。アメリカン・アパレルも、デザインを決定する前にせめてGoogle検索のひとつもしておけばよかったのにね。