米国在住のシングルファーザーのゲイ男性が、コロナ禍での外出制限中にソーシャルメディアで発表した動画の数々が、大きな話題を呼んでいます。キュートな家族動画でありつつ、笑いもあればゲイ・カルチャーも入ってるんです。
詳細は以下。
動画による説明はこちら。
この男性、ホセ・ロロン(José Rolón)さんはニューヨーク在住のウエディングプランナーで、44歳。2013年に夫のティム・メレル(Tim Merrell)さんが急逝したとき、ふたりの息子のエイヴリー(Avery)ちゃんはまだ赤ちゃんで、双子の娘のライラ(Lilah)ちゃんとロンドン(London)ちゃんはまだ生まれる前(妊娠11週)でした。以来、3人の子を育てつつ、ティムさんに捧げる絵や動画を作ってきたホセさんでしたが、今年コロナ禍での外出制限中に家族で撮った動画をTikTokに上げていたところ、これが大ヒット。わずか4か月の間に4万人近いフォロワーがついたのだそうです。
ホセさんのもとには、ゲイの子供を持つお母さんたちから、「うちの子に将来の可能性を見せてくれてありがとう」というコメントが複数寄せられているとのこと。たまにちょっと勘違いしたコメントも来てるみたいですが、それに対するお返事としてこんな作品が発表されているところがまた心憎いです。
上記Instagramポストの内容をざっくり訳すと、まずホセさんに寄せられた、勘違いしたコメント(というか質問)というのはこんな。
「別に悪気とか全然なくて純粋な質問なんだけど、ゲイの父親って、息子に女を好きになってほしいと思ってるの、それとも男を好きになってほしいと思ってるの?」
これに対する応答として、ホセさんは動画内で息子のエイヴリーくんと、わざとこんなゲイゲイしい会話をしてみせています。
ホセ「きみのクイーンはだれ?」エイヴリー「そんなの簡単、ビヨンセ」
ホセ「ジャネットかと思った。まあいい。大好きなミルクは?」
エイヴリー「ハーヴェイ・ミルク」
ホセ「バットマンとロビン、どっちが好き?」
エイヴリー「ソー」
ホセ「『イエス』はどんな風に言う?」
エイヴリー「Yaaaas, queen!(訳注:80年代NYのクィアコミュニティに端を発する言葉で、現在でも『ル・ポールのドラァグ・レース』などで広く使われている表現)」
ちょっと補足しておくと、ホセさんがこんなすっとぼけたリプライをしてみせたのは、もともとの質問が問題として成り立っていないため答えようがないから。たとえば、「なぜ人間は八本足なのか?」*1と聞かれても、答えようがないのと同じです。人間は八本足じゃないんだから、この問いは問題として間違っていて、答えの出しようがありません。それと同じで、子の性的指向が親の希望で左右できるとか、子供には親から見てあらまほしき性的指向が存在するとか、そういう傲慢で侵害的で何ひとつ子供のためにならない前提を持っていない人に「どっちの性的指向を望むのか」と訊くのは無意味なことなんです。この質問自体が、ホセさんにこれらの前提が真だと認めさせるための多重質問になっているとも言えます。
ホセさん自身は、こんな風に説明しています。
「子持ちの異性愛者には、子供をゲイと異性愛者のどちらに育てたいかなんて絶対に訊かないでしょう」とロロンは指摘した。「荒らしにはめったに返事しないのですが、これは放っておけませんでした」
“You would never ask a straight parent if they’re raising their child to be gay or straight,” Rolón noted. “I rarely reply to trolls but I couldn’t let this one go.”
これこそ"yaaaas!"だよ。あと、最近はゲイの権利に前より関心が集まっているとは言え、同性愛者の目立った表象はとにかく「カップルカップル恋愛恋愛とにかくカップルまたカップル(あとセックス)!!!!」といった具合なので、このようにシングルの人が注目を浴びるのはいいことだと思いました。
おまけ。選挙がらみのこんな動画も面白かったのでどうぞ。
- 作者:土屋賢二
- 発売日: 2014/03/14
- メディア: Kindle版
*1:この問いは、無意味な問題の例として『あたらしい哲学入門 なぜ人間は八本足か?』(土屋賢二著、文藝春秋)で挙げられているものです。