石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

セバスチャン・バック、コメディアンのホモフォビック発言でインタビュー打ち切る

Bring Em Bach - Live

元スキッド・ロウのヴォーカルのセバスチャン・バック(Sebastian Bach)が、Zoomでのインタビューで、インタビュアーのホモフォビックな発言に立腹。「そういうことは言わない方がいい」と言ったのち、黙ってカメラを切り、インタビューを打ち切ってしまったそうです。

詳細は以下。

elclosetlgbt.com

このインタビューはポッドキャスト番組The SDR Show (Sex, Drugs & Rock n' Roll Show)のためのもので、問題の発言をしたインタビュアーはビッグ・ジェイ・オウカースン(Big Jay Oakerson)というコメディアン。セバスチャン・バックが、ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォード(Rob Halfor. 1998年にゲイとしてカミングアウトしています)はコンサート前の喉のエクササイズは必要ないと言っていると話したとき、オウカースンはこんなことを言ったんだそうです。(以下、英文はSebastian Bach Ends Interview Following Host's Homophobic Joke About Rob Halford | MetalSucksより引用)

「(ハルフォードの)エクササイズはたぶん、君に言いたくないような何かゲイなことだったんだろう。『精液でうがいをしなきゃいけないんだが、どう説明したらいいかわからないよ、セバスチャン』」

“[Halford’s] exercise is probably something gay he doesn’t wanna tell ya.” “You gotta gargle jizz, but I dunno how to tell you that, Sebastian.”

で、セバスチャン・バックは即座にこう返事したんだそうで。

「あのさあ、このインタビューを台無しにせずにはいられないのか? マジな話、ロブ・ハルフォードは友達なんだよ……だからそういうことは言わないでおけ……その手のコメントは、やめておいた方がいい」

“Dude, could you not wreck this interview? Seriously, Rob Halford is a friend of mine… so spare the comments… Maybe you should skip those kinds of comments.”

この後、ポッドキャストのインタビュアーたちは、ハルフォードは来週のゲストだ(これは出まかせではなく、本当に出演が決まっていたんだそうです)と言って雰囲気を変えようとしたとのこと。しかしセバスチャン・バックは黙ってカメラのスイッチを切り、インタビューそのものをやめてしまったとの由。

プログレメタルバンドCYNICのポール・マスヴィダル(Paul Masvidal)は、セバスチャン・バックのしたことは「正しかった」とInstagramで述べています。同じポストで彼はさらに「コメディアンがユーモアに偽装した軽蔑的なやり方で『ゲイ』という語を使えるとき、ホモフォビアは文化的にいつまでも続いて行ってしまう」と書き、これは「ホモフォビックなたわごとを『普通で、あたりまえのこと』扱いするのを終わらせる(ending the normalization of homophobic bullshit)ってことに関する話だ」と説明しています。

マスヴィダルの言ってることって、けっこう日本にも通じる話なんじゃないかなあ。別にコメディアンじゃなくても、「同性愛」=面白おかしい「ネタ」、それも特にエロ関係で人の興味をそそってニヤニヤさせる「ネタ」で、それが普通かつあたりまえのことだと思ってる人、いっぱいいますもんね。かわいい猫写真目当てに見ていた猫ブログで、オス猫2匹が仲良くしていることについてブログ主が「もしかしてホモ? 気持ち悪っ(笑)」などと言い放つのを見てしまってがっくりする*1とか、かわいい犬写真が楽しみで見ていたTwitterアカウントで新刊本の「レズの誘惑……女たちの獄中サバイバル!」みたいな惹句を見てしまって削られる*2とか、日常茶飯事ですもん。

ホモフォビアというとプライド・パレードにナイフ男が現れて参加者をめった刺しにしたとか、ゲイクラブが銃撃されて死者50人とかそういう派手なニュースに目が行きがちですけど、こういう小さいチクチクの累積ダメージだって実は相当なものですよ。何がつらいって、この手のおそらくは悪気なくペロッと披露される「小さなチクチク」の背後には、「こういうことを言うとみんなが笑ってくれた、ウケてくれた、興味を持ってくれた」という過去の成功体験の積み重ねがあるはずで、さらにその陰には「これぐらい普通のこと、あたりまえのこと、みんなそう思ってる」という社会的前提もあるはずだということ。そこからうかがい知れる文化的なホモフォビアの分厚さに、打ちのめされるんすよ。今はようやく、その「成功体験」で笑ってた人の中には本当は嫌だけれど調子を合わせて笑ってあげるしかなかった人がいるはずだということ、そしていつであろうと誰かを粗雑なステレオタイプに押し込んでネタ扱いするのは失礼だということが言えるようになってきたところだと思います。セバスチャン・バック、22歳のとき(1990年)には殺虫剤メーカーのキャッチコピーをもじった“AIDS Kills Fags Dead”という言葉が書かれたTシャツ姿で雑誌に載ってド顰蹙を買ったそうなのに、ちゃんと30年分アップデートしていて偉いわ。こういう人が増えていくといいなー。

*1:実話です。以後そのブログは見なくなりました。

*2:実話です。以後そのTwitterアカウントは見なくなりました。