最近の試合でファンが同性愛嫌悪的なチャントをおこなったとして、FIFAがメキシコ代表に罰金・無観客試合などの制裁を与えました。FIFAはまた、このようなチャントが続くようなら、2022年と2026年のW杯からメキシコを追放することもありうるとしているとのこと。
詳細は以下。
ざっとまとめると、まず今回の制裁は、今年3月にグアダラハラでおこなわれたオリンピック予選でのメキシコファンによるホモフォビックなチャントに対するもの。FIFAはメキシコサッカー連盟に150万ペソの罰金と、予選の次の2試合を非公開にするという処分を課した上で、5月のメキシコ対アイスランド戦についても調査を開始しているとのこと。なおFIFAは、今後も同様のチャントが続くようならメキシコを2022年・2026年のW杯から追放する可能性もあるとしているそうです。
この「ホモフォビックなチャント」というのは、敵チームのゴールキーパーがボールをクリアしたときに、独特の節をつけて男性同性愛者に対する罵倒の言葉(定冠詞+名詞の2語)を叫ぶというもの。この風習がいつどのように始まって現在のようになったのか、そしてなぜやめるべきなのかについては、以下の動画(2019年)が非常にわかりやすいです。
上記動画の内容を簡単に説明すると、こんな感じ。
- このチャントの最も古い記録は、80年代メキシコのアメリカンフットボール界にある
- 当時はキックオフのときにファンが叫ぶもので、同性愛差別的な単語そのものは使わず、韻だけ踏んだ別の言い方に置き換えていた(つまり、今ほどあけすけにホモフォビックではなかった)
- サッカー界では、CFモンテレイ(ロス・ラジャードス)のファンたちが最初にこのチャントを採用
- ゴールキーパーにプレッシャーをかけるためのチャントとして使われたが、単語はアメフト時代同様置き換えられていた
- 1999年、サッカー選手でゴールキーパー(当時)の Oswaldo Sánchezが試合中、敵チームのゴールキーパーに対し、置き換えなしでホモフォビックな単語を使った言い回しをぶつける
- メキシコのサッカーファンたちの間でこの言い方が流行ってしまう
- 敵チームのゴールキーパーがボールをクリアするごとに唱和するようになる
- ドイツW杯(2006年)、南アフリカW杯(2010年)、ブラジルW杯(2014年)でもこのチャントが使われ、論争になる
- FIFAとメキシコサッカー連盟は問題解決に役立ってない
- FIFAは当初何もしなかった
- 2014年W杯以降、こうしたチャントに処罰を下すようにはなったが、その一方でロシアなどアンチLGBTな法律がある国でトーナメントを開催するという二重基準っぷりも見せている
- メキシコサッカー連盟も、当初何もしなかった
- 処罰が下されるようになってからも、気にしているのは処罰による収入減だけ。マチスモやホモフォビアの問題は重要視されていない
- FIFAは当初何もしなかった
- (『そんな単語、友達同士で気軽に使う人もたくさんいるのに何が問題なんだ』的な意見に対して)あなたは特権を持っているので、あるグループの危機感を少しでも和らげるために、たったひとつの単語すら譲る気がないのだ
- 異性愛者が仲間内でこの言葉をあたりまえのように使えているのは、異性愛者であるという特権があるから
- 特権とはつまり、好きな人と街中で手をつないでも殴られたりしないということ
- ゲイや、ゲイでなくても身のこなしなどが原因で殴られたりいじめられたりしたことがある人にとっては、この言葉は生涯暴力と結びついたものだ
- このスポーツをもっと、あらゆる人が楽しめるようなものにしていこう
有名人がそのものズバリの罵倒語を公の場で使ったとたん、サポーターたちもこの表現を使い始めて、20年経ってもおさまらないってところが怖いですね。パブリックフィギュアの差別的な言動は、このように「あれが許されるならこれぐらい言ってもいいんだ」というお墨付きとして機能してしまうという点で非常に有害だと思います。