石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

ストーンウォールで警察がしたことは「間違っていた」 NY市警が謝罪 米ニューヨーク

Stonewall
Stonewall / Photographing Travis

2019年6月9日、米国ニューヨーク市警のジェームズ・オニール(James O'Neill)署長が、50年前の「ストーンウォールの反乱」での警察官の行動は間違っていたとして公式に謝罪表明しました。

詳細は以下。

www.nytimes.com

「ストーンウォールの反乱」は、1969年6月28日にグリニッチ・ヴィレッジのゲイバー「ストーンウォール・イン」で起こった暴動事件。相次ぐ警察からのガサ入れ(という名の嫌がらせ)に怒った顧客たちがレンガや瓶を投げて抵抗し、そこから数日間にわたって抗議を続けたというもので、この事件はその後のLGBTの権利運動に大きな影響を与えたと言われています。現在6月がプライド月間とされているのも、このストーンウォールの反乱があった月だからです。

ジェイムズ・オニール(James O'Neill)署長は、2019年のプライド月間の安全対策を説明する席で、以下のように謝罪のことばを述べました。

ワールドプライド(訳注:ストーンウォールの反乱50周年を記念する、WorldPride NYC 2019のこと)開催中の今、1969年の6月にストーンウォール・インで起こった事件について話さなければ無責任だということになると思います。

ここで立ち上がって、ストーンウォールの事件についての専門家のふりをするつもりはまったくありません。しかしわたしは、あそこで起こったことは、起こってはならないことだったと本当にわかっています。ニューヨーク市警がとった行動は、明白に間違っていました。警察の行為も、法律も、差別的で抑圧的でした。そのことについて私は謝罪します。

"I think it would be irresponsible of me, as we go through World Pride month and not speak of the events at the Stonewall Inn in June of 1969.

"While I'm certainly not going to stand up here and pretend to be an expert on what happened at Stonewall, I do know that what happened should not have happened. The actions taken by the NYPD were wrong, plain and simple. The actions and the laws were discriminatory and oppressive, and for that, I apologize."

警察と法の何が差別的で抑圧的だったのかよくわからない方のために、Janell Hobson著Are All the Women Still White?: Rethinking Race, Expanding Feminisms*1という本から、50年前ストーン・ウォール・インで警察と戦ったラティーナのドラァグクイーンでトランスジェンダーのシルビア・リベラによる回想を以下に引用してざっくり訳してみます。

その後(訳注:リベラが1969年6月28日の夜、ストーンウォール・インに入った後)突然、警察が客たちに身分証明書の提出を命じながら店の中を歩き回り始めた。当時のニューヨークには、出生時に割り当てられたジェンダーに「ふさわしい」衣服を最低3点身につけていなければ違法とする法律があった。強制捜査で逮捕されるのは大抵、違うジェンダーの服を着ている人と、身分証明書がない人、それからバーの従業員たちだった。それ以外の人たちは放免された。トランスジェンダーやジェンダー・ヴァリアントの人々は、レズビアンやゲイとは分けられていたとリベラは言う。「いつものやり方は、『オカマはこっち、クソレズはこっち、それからバケモノはあっち』。コミュニティ内のわたしの側の人たちは、そう呼ばれていたんです」と彼女は説明した。「クイーンと本物のブッチダイクは、バケモノだったんです」。しかしこの日の夜、対立が起こった。

Then, all of a sudden, police were walking through, ordering the patrons to line up and present identification. There was a New York law requiring people to wear at least three pieces of clothing "appropriate" to their birth-assigned gender, and usually in there raids, only people dressed in clothes of a different gender, people without IDs, and employees of the bar would be arrested. Everyone else would be released. Transgender and gender-variant people were separated from lesbians and gays, acording to Rivera: "Routine was, 'Faggots over here, dykes over here, and freaks over there,' referring to my side of the community." She elaborated, "The queens and the real butch dykes were the freakes." But on this night, a confrontation occurred.

ちょっと補足すると警察は逮捕時に暴力も使っていたし、こうした手入れによって「同性愛者」のファイルを作ることで公務員の身上書類を補完するってこともやってたんですよ。警察の過去のこうしたふるまいについて「当時の法律では合法だったから問題ない」と居直るでも、「そんな事実はなかった」と嘘をつくでもなく、公式に謝罪したというのはよいことだと思います。……まあそれでも、なんで謝罪するのに半世紀もかかったんだとは思いますし、Slateのこちらの記事が言っているのと同じく、「謝罪するなら、まず今の警察がやってる差別やめたら?」とも思いますけど。たとえばつい昨年、職務質問で以前の名前と今の名前を両方答えたトランス女性を「氏名詐称」扱いで逮捕し、わざとピンクの手錠をかけて嘲笑してたのはニューヨーク市警の警官だったよね? 50年経っても改めきれていないそういうところを、まず改めてほしいです。

*1:Hobson, J. (2016). Are All the Women Still White?: Rethinking Race, Expanding Feminisms. SUNY Press. p. 94.