石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『voiceful』(ナヲコ、一迅社)感想

Voiceful (IDコミックス 百合姫コミックス)

Voiceful (IDコミックス 百合姫コミックス)

濃く熱く胸に響く愛の話

ネットの中だけで歌う陽菜と、彼女に憧れる内向的な少女・かなえ。出会うはずのない二人が、ふとしたきっかけから出会い、そして、互いを強く求めるようになる……

……というストーリーの百合漫画です。「薄い」とか「ガチ百合を求めるなら回避推奨」とかいう声も聞きますが、あたしはその逆に「濃く熱く胸に響く愛の話だ」と思いました。

お話冒頭のいちご大福のエピソードなんて、そんじょそこらのキスシーンやセックスシーンなんかよりよっぽど濃い心の交流が表現されていると思います。ここで描かれているような、相手のことが大好きで、幸せになってほしくて、相手が生きていてくれることそのものをうれしく思う気持ちが「愛」じゃなかったら、いったい何なんでしょう? 陽菜とかなえの気持ちのつながりは、単なる友情や、ひょっとしたら恋をも超えた高みにあるとあたしは感じました。

この作品がさらにすごいのは、「愛」はたやすく依存だの自己愛だのにつながりかねないものだということをしっかり押さえていること。そしてその上で、この2人が単なる依存関係でも自己愛を投影し合うだけの関係でもない、シンプルな「だいすき」状態に到達する瞬間をはっきり描いてみせてくれていること。いちご大福のシーンでは「大好き」だった表記が、クライマックスで「だいすき」になっていることには、やっぱり意味があると思うんですよ。さまざまな思惑や利得を超えた(それらを撲滅した、というのではなく、ただ『超えた』)ところにある、一段上の「すき」な気持ちに2人が到達した、というのが、あのひらがなの「だいすき」表記にこめられているんだと思います。

ひとを愛することによって自分も救われたいというのは、多くのひとが心に抱いている願いだと思います。『voiceful』は、まさしくその願いが理想的なかたちでかなう瞬間を描き出してみせた傑作百合漫画です。女のコ同士の行為(エロとか)よりむしろ相手を大事に思う心に萌える百合好きさんに、超絶おすすめ。