- 作者: 深見真,うなじ
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2006/09/30
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 37回
- この商品を含むブログ (56件) を見る
面白いんだけど、ちょっと薄味かな?
殺意や闘志を銃器の形で実体化できる特殊能力者「パラベラム」の少年少女たちの戦いを描くライトノベル。レズビアンキャラも登場します。『ヤングガン・カルナバル』でどっぷり深見作品にはまり、その後『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』→『武林クロスロード』と濃いものばかり立て続けに読破した直後に読んだためか、この作品は「面白いんだけど、ちょっと薄味かな?」という印象でした。
ここが面白い!
主人公たちの武器<P・V・F>がユニークで面白いです。「パラベラム」が思っただけで銃器を実体化するというのは『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』の「銃使い」と少し似ていますが、大きく異なるのは、<P・V・F>は完全オリジナルの巨大な武器で、しかも右腕全体を装甲で包み込むような重装備になること。<P・V・F>が展開されるシーンがまたえらくかっこよくて、これ特撮で誰か映像化してくれないかなー、と切に思いました。余談ですが、『トランスフォーマーがあそこまですごい映像になるんなら誰かこれもやれよハリウッドで』と思いながら読んでいたら、作品内にマイケル・ベイや映画『トランスフォーマー』の話題が出てきてウケたりしました。
あと、これはもう深見作品のお約束ですが、レズビアンカップルやレズビアンキャラがしっかり出てくるところも楽しいです。キスシーンまであってびっくり。美人で変人で、「可愛い娘はいねがー!?」の睦美さん、好きだなあ。
でも、ここはちょっと薄口かも。
a. 主人公が自分の人生に絶望している理由が、ちょっと軽すぎやしませんか。
- 小学生のとき、テストで満点を取ったのにカンニングだと疑われ、約束の携帯ゲーム機を買ってもらえなかった
- 中学生のとき、クラスメイトのお誕生会に呼ばれなかった
- 姉がろくでもない男と駆け落ちした
- 両親が離婚した
……これだけで「不幸に忍耐するだけの日々」(p11)とうそぶき、「俺みたいな男が、死ぬのを怖がるほうがヘンじゃないか?」(p40)という結論にまで飛びついてしまうのは、いささか子どもっぽすぎるかと。第一、これぐらいのトラウマで68口径の巨大な銃器を実体化できてしまうのなら、たいていの人はとっくにジャバウォック(『ARMS』(皆川亮二、小学館)の)と化して反物質で地球丸ごとぶっ壊せているのではないでしょうか。
ただ、これはわざと「子どもの絶望」を描こうとしたのかな、という気もします。というのは、深見さんご自身は、もっと恐ろしい心の闇もいくらでも書けるタイプの作家さんだと思うからです。たとえば『ヤングガン・カルナバル ドッグハウス』で弓華が観客たちから向けられる底無しの悪意の描写なんて、「人間の理由なき害意や憎悪は、どんな銃や暴力より恐ろしい」と震え上がらされましたもん。そこをあえてセーブして描写されているのは、なにか意図あってのこと(演出? 伏線?)か、あるいはレーベルのカラーなのではないかと感じました。『疾走する思春期のパラベラム』では、暴力シーンやレズビアニズムの描写も、他作品に比べてかなり控え目なのですが、これもひょっとしたらそのへんが関係しているのかもしれません。いや、ライトノベルはあまり読まないので、これはあくまで憶測なんですけれども。
b. 睦美の推理に、やや疑問が。
塾のセンセーをやっている自分から見ると、あのキャラクタのあの件は推理の決め手にはならないような気がするんですよ。そんなわけで、謎解きの要素もやはりちょこっと薄口かと。
まとめ
さっくり読める軽めのガンアクション小説だと思います。メインキャラにレズビアンがいるのも嬉しいところ。ただし、全体としては、まるで大リーグボール養成ギプス(古い)をつけてパワーを抑制しながら書いているかのような感じを受けます。すべてにおいてパワー全開な『武林クロスロード』あたりから入っていろいろな意味で道を踏み外した人が同じノリを求めて読むには向かない小説かもしれません。逆に、『武林~』はアクが強すぎて苦手、という人には、こちらの方が読みやすいでしょう。