石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『オクターヴ(2)』(秋山はる、講談社)感想

オクターヴ(2) (アフタヌーンKC)

オクターヴ(2) (アフタヌーンKC)

予想はしててもけっこう衝撃的

元アイドルの「雪乃」と、年上の売れないミュージシャン「節子」の恋を描く話題作、第2巻。最後の数ページで急転直下の展開があり、これは賛否両論分かれるだろうな、と思います。とは言え、いずれこういうシークエンスが描かれるだろうということは1巻からずっと暗示されており、早いか遅いかだけの問題だとも思うんですけれども。あたしとしてはあの展開は「アリ」で、それ自体よりも「そこから先がどうなっていくのか」の方がこの作品のポイントだと思っています。節子の意外な子供っぽさも描かれ始めているだけに、余計に胸が痛む情勢ではあるんですが、心を鎮めて粛々と3巻を待ちたいです。この巻ではその他に雪乃の親友「鴨ちゃん」のホモフォビアなどもうまく描かれており、1巻に劣らずリアル感ある作品だと感じました。

急転直下の展開

ネタバレ防止のため、巻末で具体的に何が起こるかは伏せます。ただしこれ、衝撃的ではあるけれども、じゅうぶん予測可能な出来事ではあるんですよね。1巻でも既に伏線は張られていましたし、2巻でも、コンビニ帰りのとある1件の後で雪乃が

グロ……グロいってそれ……

とか言いながらも

なんだか――体が熱いんです

と欲情している、というあからさまな伏線(p. 36)がありますし。いつかはこうなるはずだったことがついに来た、という感じかな。あの急激な流れが納得いかない人もいるかもしれませんが、あたしはあれはかえってリアルでいいと思います。頭ぐるんぐるんで欲情を持て余した状態なんてあんなもんだし、予定調和の中にも意外性をチクリと効かせるという意味でもありでしょう、あれは。

節子の意外な子供っぽさ

1巻では雪乃よりはるかに大人っぽい存在にも見えた節子ですが、この巻では

私 そういうとこ ほんと小学生
執着のあるモンに対して スマートに対処できないっつ――か どうしたらいいのかわかんなくなる

などという台詞(p. 36)もあって、意外に幼い側面を見せています。電車の中での涙(p. 153)なんかも、普段のクールさとはうらはらに、痛々しいほどけなげな感じ。それだけに、2巻ラストの出来事を今後節子がどう受け止めるのかが読めなくて、余計にハラハラさせられました。

リアル感たっぷり

相変わらず、現役レズビアンの目から見てもすごいリアル感にあふれています。たとえば、雪乃の気のいい親友「鴨ちゃん」が悪気なく表出するホモフォビアとか。鴨ちゃんが陽気で優しい人であるだけに、これはとんでもなくリアル。偏見や差別心って、必ずしも陰険で根性悪い人だけが持っているものではありませんからね。それに対して雪乃が、

もしかして私――いろいろ見くびりすぎていた?

とショックを受けるあたり(p. 108)も、いかにも駆け出しレズビアン(いや、雪乃のセクシュアリティはまだ流動的ですけど)という感じで、思わず苦笑してしまいました。あんなもんだよね。恋に浮かれて、いろいろ見くびって、手痛い目に遭うんだよね初心者さんは。

ちなみに雪乃と節子のセックス描写も1巻と同じく繊細で、変なポルノ的表現はなし。むしろ、「不安を埋めようとしてセックスに走る」とか、「実家セックスで声が出せなくて、相手の二の腕に噛みついて我慢する」とか、すごーく現実寄りの、人間くさい描き方になっていると思います。オカズ目的の方には不満かもしれませんが、あたしとしては「ようやく女性同士の行為が、『ヘテロのための鑑賞物』ではなく、ただの『セックス』として描かれる時代が来たんだなあ」と感慨深いです。

まとめ

1巻と同じく、現実味ある描写を丁寧に積み重ねていく作風がとてもよかったです。その現実味もあいまって、ラストの展開が非常に胸に痛い1冊でした。節子の意外と子供っぽい面が徐々に見えてきているだけに、なおさら。序破急で言うとおそらくここが「破」の部分(にさしかかったところ)だと思うので、3巻以降の「急」の部分でどうお話を収束させていくのかに期待がかかるところです。