石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『バステティシャン』(大島永遠、実業之日本社)感想

バステティシャン (マンサンコミックス)

バステティシャン (マンサンコミックス)

明るくおバカな百合コメディ

バスト専門エステが舞台の、明るくおバカな百合コメディ。カラリとしたギャグと、入魂の乳描写がすばらしかったです。笑いの中に時々胸のすく名台詞が炸裂するところもいいし、レズビアンカップルが当たり前のように出てくる(しかも複数)のも嬉しいところ。女性同士のエロスのとらえ方も的確で、楽しく読みました。

笑いと乳描写について

ギャグについては、まず複数回ある「出オチ一発ネタ」だけで完全に元が取れるぐらい笑わされました。それ以外のところも、貧乳も巨乳も等しく俎上に載せる乳ギャグの数々がよかったです。全員が全員、乳をテーマに大真面目にバカをやっているところがステキ。

また乳描写については、巨乳の質感がたいへんリアリスティックで感動しました。巨乳って、2種類あると思うんですよ。お風呂で浮く巨乳と、浮かない巨乳です。前者は餅のように柔らかく、後者は乳腺が発達していてちょっと固い感じなんですが、この漫画では前者の描写がとにかくリアル。カリスマバステティシャン・更紗の施術シーンなど、動作はものすごくアホなのに、乳の質感はホンモノなんですよ。主人公・心愛(ここあ)の、

わあ…さすが更紗さん…! おっぱいがまるでお餅のように…!!

という台詞に、笑っていいやら納得していいやらでもう大変でした。

名台詞について

女性目線の名台詞の数々が、実に痛快でした。乳を揉まれて感じないのは不感症だと男に言われたクライアントに、心愛が

お客様は悪くないです! それってふつー!
いいですか? 女のバストってもんは――乳房は性感帯じゃないんです! 感じるのは乳首だけ! こんなん(引用者注:乳のこと)肉! つーか脂肪! 腹肉の延長線!! AVで乳を激しく揉まれて「ああーん」とか言ってるの全部演技ですから!

と熱く語る場面(p. 65)とか、すばらしすぎる。乳を揉みしだきさえすれば快感が与えられると勘違いしている男性諸氏は、自分の腹肉でも揉みまくってみればいいんです。気持ちいいか、それ?

他には、彼女から男っぽくふるまうよう強要されているレズビアンの相談に対し、

別れましょう ありのままの君を愛してくれる人が他にいる

と言い切る場面(p. 150)なんてのもスカッとしました。「恋愛=ヘテロ恋愛のかたちをなぞること」では決してないわけですよ、この漫画では。

なお上記の2例とも、ただ正論を言い放って終わりではないところがさらによかったです。どちらもこの後、もう少し深いところまでお話が掘り下げられていくんですよ。そのあたりも見どころだと思います。

百合/レズビアン描写について

物語の基本構造そのものが「新人バステティシャンの心愛と真海(まみ)が憧れの更紗を取り合う」という百合百合しいものである上に、ガチカプも2組出てきます。女性が女性を好きになることを誰一人疑問視しない世界観がナイス。また、FTMとレズビアンの違いもきちんと押さえられていて、安心して読むことができました。ちなみにタチキャラの朝陽(あさひ)がクライアントの性感帯を開発する場面のエロティックさもよかったです。指先のテクニックよりむしろ態度によるじらし方の巧みさに重点が置かれているあたり、まことに当を得た描写だと思います。

まとめ

スカッと笑えるエロティック百合コメディです。ギャグも乳描写もレズビアンの扱いも、どれもみなよかったです。ナマ乳が乱舞しまくる作品でありながら、変に男性目線に迎合したりしないところも好印象。1巻完結の作品ではありますが、「作者的にはいつでも続編OK」(あとがきより)だとのことなので、ぜひシリーズ化してほしいと思います。