2015年の年末、ロシアのサファリパークでトラとヤギが友情をはぐくんでいるというニュースが世界を流れました。ロシアのある弁護士が、この2頭の友情は「ゲイのプロパガンダ」であり、報道を禁じるべきと主張しています。
詳細は以下。
A Lawyer Thinks This Tiger's Friendship With A Goat Is "Gay Propaganda" - BuzzFeed News
まず、このトラ「アムール」とヤギの「チムール」の友情について、去年のAFPBB Newsの報道から引用してみます。
ロシア極東の沿岸都市ウラジオストク(Vladivostok)にあるサファリパークで飼育されているトラが、生き餌として与えられたはずのヤギと友情を育み、同国の人々の心をとらえている。
ウラジオストク郊外のプリモルスキー(Primorsky)サファリパークで飼育されている雄のシベリアトラのアムール(Amur)と、雄ヤギのチムール(Timur)は、仲良く食事をしたり、雪の中で遊んだりしている他、今週にはふざけて頭で互いを突っつきあう場面も見られた。
2頭の仲良し動画はこちら。
アムールとチムールはどちらも雄です。これを大問題と受け止めたのが、ノボシビルスクの弁護士Alexei Krestianov氏。氏が最近Facebookで発表した意見によれば、報道を見た子どもたちがゲイになりたがるかもしれないから、この2頭について報じるのは禁止するべきなのだそうです。アムールとチムールの「伝統的でない共同生活」を見せるのは「未成年の私生活への介入」であり、「同性愛の押し付けであるのみならず、隠れたゲイのプロパガンダである」ため、ロシアの同性愛宣伝禁止法に抵触するというのが彼の意見。マジですか。
さて、ここで、アンチゲイな皆さまがこれまで「ゲイのプロパガンダ」であるとして糾弾してきたものを振り返ってみましょう。
1. イルカの像
This city is having a huge argument about whether this statue of dolphins kissing is gay
https://t.co/aPrQnIyAzN pic.twitter.com/q7gQUtqNmq
— BuzzFeed UK (@BuzzFeedUK) 2015, 11月 6
2. ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト(欧州の国別対抗ポップ音楽祭)
3. U2のアルバム"Songs of Innocence"のジャケ写
(参考:A Russian Politician Thinks U2’s Album Cover Is ‘Gay Propaganda’ | TIME)
4. ディズニー映画『アナと雪の女王』
5. ディズニー映画『ライオン・キング』
(参考:The Bachmann Record : Revealing Quotes)
きりがないのでこのへんでやめておきますが、これまでのところ、上記の像やイベントやアルバムや映画が原因で異性愛者が同性愛者に変わった例はひとつも報告されていません。本当にこれらが「プロパガンダ」だとしたらどれも大失敗だったということになるし、そもそもどれも「プロパガンダ」じゃないでしょ最初から。人の性的指向は他人がどうこうして変えられるようなものではないということは、当の同性愛者がいちばんよく知っています。それに上記の"Songs of Innocence"のジャケ写なんて、あれ、U2のドラマーのラリー・マレン・ジュニアとその息子ですよ。歌詞の「自分自身のイノセンスを維持する(hold on)ということは、だれか他の人にしがみつく(hold on)ことに比べてなんと難しいことか」という部分を映像で表現したもので、つまり息子はイノセンスの象徴なわけ。半裸の男がふたりいれば即ゲイセックスの象徴だと思い込むのは、それこそイノセンスが足りなさすぎるのでは。
以前から不思議に思っているのですが、森羅万象に「ゲイのプロパガンダ」(だと自分が解釈したもの)を見いだしては反対運動を始める皆さまの頭の中では、異性愛者というのはそんなに簡単に同性愛者に変わってしまうものなのでしょうか。そんなにがんばって同性愛(っぽいと自分が思った)表現が目に入らないようにし続けないとゲイになってしまうだなんて、本当にあなたがた、異性愛者なの? たかが動物園のトラとヤギの同居でそこまで興奮できるなら、『あらしのよるに』とか見た日には一体どうなっちゃうの?
そうそう、動物で思い出したのですが、アイルランドでは以前雄牛の「ベンジー」がゲイだとされて持ち主に殺されそうになり、有志がクラウドファンディングで資金を集めて保護するという事件がありました。また米国でも、飼い主からゲイだと思われた犬が安楽死させられそうになったことがあります。アムールとチムールが、この先アホなホモフォーブたちのせいでひどい目に遭ったりしないよう、切に祈っています。