米国フロリダ州オーランドのゲイクラブ「パルス」で起こった銃乱射事件のオマル・マティーン(Omar Mateen)容疑者はこのクラブの常連で、ゲイ用出会いアプリも使用していたとする証言が出てきています。
詳細は以下。
上記によればマティーン容疑者は少なくともここ3年間「パルス」に通っており、ゲイ用の出会いアプリで少なくともひとりのゲイ男性とメッセージをやりとりしたことがあると言われているとのこと。マティーン容疑者を「パルス」で十数回見かけたという人は、少なくとも4人いるのだそうです。ある男性同士のカップルは、宗教がらみのジョークが原因で同容疑者にナイフで脅されてから、彼に話しかけるのをやめたとも言っています。またPalmBeachPostによると、ポリスアカデミーで同級生だったという人物が、マティーン容疑者はゲイだったと思うと話しているそうです。
日本語圏の報道では、今(2016年6月14日の朝)ざっと調べた限りでは「男同士のキスに激怒」「ISとの関連」「テロとの接点」「米の難題」路線が大半で、上記のような情報はほとんど流れていないみたいですね。唯一見つかったのは、AFPBBのこちらの日本語記事でした。
日本だとそもそも乱射事件そのものを報じるニュースの見出しからして「ゲイ」「同性愛」などの言葉を使わないようにしたり、本文でも「パルス」がゲイクラブであるとはわかりにくいような報じ方をしたりしていたメディアも多かったので、なおさらこのような情報は「なかったこと」にされてしまうのかもしれませんね。「テロやISとのつながりを強調して恐怖を煽る方が日本人には受けるだろう」みたいな判断もあるのかもね、もしかしたら。
とは言え、容疑者の性的指向に関する報道の仕方を一歩間違えると、この乱射事件が「クロゼットに閉じこもった自己嫌悪の強いゲイ/バイセクシュアル(self-loathing closeted gay/bi)による犯行であり、俺/私たち異性愛者には関係のないこと」として矮小化されてしまう可能性もあるので、迂闊な切り口で雑に報道してほしくないとも思います。いまだに同性愛/両性愛を醜聞扱いするようなイエロー・ジャーナリズムが興味本位で飛びつくようなことだけはしてほしくないけど、どうなるのかなあ。
ちなみに性的指向以外では、マティーン容疑者については既に以下のような情報が報じられているようです。
- テロ関連の捜査対象として、少なくとも2度FBIの取り調べを受けていた
- 高校の1年先輩のドラァグクイーンは、マティーン容疑者は「わたしや同僚の多くがゲイだと知っていたが、それを問題だと思っているようには見えなかった」と言っている
- 双極性気質("bi-polar") で、ステロイドを使用し、元妻に肉体的暴力をふるっていた
- 家のバスルームの内装のテーマは『スター・ウォーズ』だった
- 凶行前の土曜日、両親の家を訪問していた
- 銃を乱射する前、「パルス」でひとりで酒を飲んでいた
- ディズニー・ワールドが標的になっていた可能性も?
これらのニュースを読みながらあたしが陰鬱な気持ちで思い出していたのは、マイケル・ムーアの映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』のこと。コロンバイン高校銃乱射事件が起こったとき、保守系メディアは事件を「マリリン・マンソンの影響」のせいだとして騒ぎ、犯人たちが事件直前まで興じていたボウリングの悪影響については誰も論じなかったとマイケル・ムーアは皮肉っていましたっけ。オーランドの事件についても、今の時点で何が「マリリン・マンソン」役を振られていて、何が「ボウリング」なのかということを常に考えねばならないと思います。「スター・ウォーズのバスタオルのせいで惨劇が起こった」なんて言い出す人はまさかいないと思うけど、それと同レベルの稚拙な議論はこれからいくらでも出て来そうだし、警戒するに越したことはなさそう。今言えることは、とりあえずそれだけだわ。
追記(2016年6月17日)
今回の事件について必読だと思う日本語記事を3つ紹介しておきます。