石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

トランス女性活動家が刺され死亡 交際相手の男を逮捕 アルゼンチン

2022年8月21日、アルゼンチンのサンタ・フェで、著名なトランス女性活動家のアレハンドラ・イロニシ(Alejandra Ironici)さんが遺体で発見され、交際相手の男が殺人の疑いで22日に逮捕されました。検察官はこの男を、マチスモやミソジニーによる女性殺し(femicidio)およびトランス女性への憎悪にもとづくトランス女性殺し(transfemicidio)の罪で起訴しています。

詳細は以下。

elpais.com
www.airedesantafe.com.ar

読めば読むほどひどい事件だわ、これ。最初にEL PAÍSの記事の冒頭で遺体が「焼け焦げのある状態で発見された」というところを読んで、てっきり行きずりのトランスフォーブによるヘイトクライム放火殺人かと思いきや(それだって十分ひどいが)、そうじゃないの。Airedigitalの記事によれば、アレハンドラ・デル・リオ・アヤラ(Alejandra del Río Ayala)検察官は事件の経緯について、被害者の交際相手のエクトル・ダミアン・バレロ(Héctor Damián Barrero)容疑者が、被害者の背後から襲い掛かって計46回刺したのち、証拠を隠蔽しようとして遺体に火をつけたと説明しているのだそうです。検察庁はさらに、彼が被害者に性的虐待を加えていたかどうかについても調べているところだとのこと。

イロニシさんは身分証明書の性別変更や、公立病院での性別適合手術、トランス女性としての公立学校教員就任など、さまざまな面でアルゼンチンのトランス・ライツの先駆者でありつづけてきた人。サンタ・フェでは彼女の死を悼み、憎悪によるトランス女性殺しはもうたくさんだ("Basta de transfemicidios")と訴えるマーチが開催されています。

ここでいう"transfemicidio"(トランスフェミシディオ)や、そのもとになった"femicidio"(フェミシディオ)ということばは、日本にはたぶん英語の"transfemicide"(『トランスフェミサイド』)や"femicide"(『フェミサイド』)という単語のかたちで入ってきてるんじゃないかな。でも、概念まで周知されてるとは言い難いと思います。単純に字面だけを見て「トランス女性殺し」や「女殺し」のことだと思ってしまった人たちからの「男/シスジェンダーだっていっぱい殺されているのになぜあいつらだけ声高に権利主張するのか」みたいなイカレポンチな意見、何度か見たことありますもん。で、今回このエントリを書くにあたってどういう訳語を当てたらいいのかと悩んでスペイン王立アカデミーの辞書をひいたら、ものすごくわかりやすい定義が書いてあったので以下に訳してご紹介。


フェミシディオ
1. マチスモ(男性優位を特徴とする性差別の一形態*1)またはミソジニー(女性に対する嫌悪/反感/憎悪*2)のために、女性が男性の手にかかって殺されること。
feminicidio
1. m. Asesinato de una mujer a manos de un hombre por machismo o misoginia.
残念ながらトランスフェミシディオの項は(まだ)なかったんだけど、 El Financieroのこちらの説明がわかりやすいかと。

ジェンダー・アイデンティティによるフェミシディオ、またはトランスフェミシディオとは、トランス女性であるというだけの理由で、憎悪という加重要素をもって行われる殺人事件である。

Los feminicidios por identidad de género o transfeminicidios son los asesinatos de mujeres trans, cometidos con un agravante de odio por el simple hecho de ser mujeres trans.

イロニシさんの死で«¡Basta!»(もうたくさんだ!)と怒っている人たちは、こういうものに対して怒ってるんだということが伝われば幸いです。

*1:かっこ内の説明は、machismo | Definición | Diccionario de la lengua española | RAE - ASALEを和訳したもの。

*2:かっこ内の説明は、misoginia | Definición | Diccionario de la lengua española | RAE - ASALEを和訳したもの。