石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

大人になっても心が死なないブレックファスト・クラブ―映画『パワーレンジャー』(2017)感想

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みずみずしく繊細なカミング・オブ・エイジ映画

キャラクタの性的指向が理由で、ロシアで18禁にされた戦隊ヒーロー映画。その実態は、大変よくできた思春期ドラマでした。世界中で『ブレックファスト・クラブ』になぞらえられているのもさもありなん。セクシュアリティの描写も大正解だったと思うわ。

『ブレックファスト・クラブ』の21世紀版進化系

この映画は、日本のスーパー戦隊ものを英語圏向けにローカライズしたテレビドラマ『パワーレンジャー』シリーズの劇場版リブートです。ストーリーは、米国の高校生5人が異星から飛来した「パワーコイン」に選ばれてスーパーヒーローとなり、地球を守るというもの。というと、まるでスーツアクターとロボットがガチャガチャするだけの子供向け特撮映画のようにも聞こえるでしょう? ところがそうじゃないんです。バトルシーンもたっぷりありますが(そして大迫力なんですが)、子供はもちろん大人にもぜひ見てほしい、とてもよく練られた青春映画なんです。

主人公のひとり、トリニー/イエローレンジャーがヘテロではないというニュースを今年3月に紹介した時点で、この作品のRotten Tomatoes経由で読めるレビューはほとんどすべて目を通していたわたくし。そのとき印象的だったのは、本作品を思春期映画の金字塔『ブレックファスト・クラブ』(1985)になぞらえるレビュワーがとても多かったことでした。日本での公開後、鑑賞した人からも同様の声が聞かれたので、実はこのレビューを書くにあたり、

  1. Netflixで『ブレックファスト・クラブ』を復習
  2. その直後、立て続けにブルーレイ(北米版)で『パワーレンジャー』を視聴

というスタイルで鑑賞してみたんですよ。そしたら、これ、マジでブレックファスト・クラブでした。しかもそこに21世紀ならではの進化も加わっているというすばらしさでした。

『ブレックファスト・クラブ』は、互いの名前すら知らなかった高校生5人が土曜日の罰登校を機にふと心を触れ合わせた、はかなくも宝石のように大切な瞬間をとらえた名作。そしてこの映画版『パワーレンジャー』もまた、何の接点もなかった5人がハイスクールの罰登校で知り合い、葛藤を経て少しずつ心を通わせていく物語だったりします。キャラクタの基本的な設定にも共通点が多いし、ティーンエイジャーならではの苦しみや不安が、きめこまかな表情や構図を通してじっくり語られていくところも一緒。『パワーレンジャー』の焚火を囲んでの打ち明け話の場面などは、特に『ブレックファスト・クラブ』後半のある名場面を強く連想させるものとなっています。

本作品が面白いのは、これらの描写が模倣どころか一種の斬新なアップデートとして機能しているところ。おそらく、作り手の側が最初から大いに『ブレックファスト・クラブ』を意識した(実際、ブルーレイのオーディオ・コメンタリーやキャスト・スタッフへのインタビューなどで、この作品は非常によく言及されています)上で、要所要所に現代ならではの改変を加えたのがよかったのでは。

今回改めて2017年の感覚で『ブレックファスト・クラブ』を見直してみて物足りなかったのは、

  • 「まったく違う5人」の物語のはずなのに、結局白人だけの話であること
  • ルッキズムや(異性愛限定の)恋愛至上主義を甘諾していると解釈され得る場面があること

などでした。80年代ならではの限界だったとも言えますし、だからと言ってこの作品の価値が減じるものではありませんが、『パワーレンジャー』ではこれらの点すべてに変更が加えられています。まずメインキャラ5人の人種が白人・黒人・アジア系・南米系とさまざまである上に、自閉症スペクトラムや同性愛者またはクエスチョニングの子もいたりします。そして、ルッキズムや不要な恋愛要素はいっさいなし。実はキンバリー/ピンクレンジャー(ナオミ・スコット)とジェイソン/レッドレンジャー(デイカー・モンゴメリー)のキスシーンも撮影されてはいるんですが、そのカットは結局採用されなかったんです。監督と脚本家によるブルーレイでのオーディオ・コメンタリーによれば、試写で観客たちがそのキスシーンを望んでいないことがわかったし、ここでキスさせるのは陳腐(trope)だし、キンバリーがこの場面でジェイソンの部屋に来た動機はそういうことではないのでカットしたとのこと。英断でしたよね、これ。

もうひとつの大きな違いは、メインキャラたちが物語終了後どうなるのかについての示唆。『ブレックファスト・クラブ』の終盤では、おそらくこの5人の人生はこの罰登校の土曜日にふと交錯しただけで、月曜以降はまた別々の道を歩み、やがては今自分たちを苦しめている親たちと同じような大人になる公算が少なくないことが暗示されています。「不思議ちゃん」のアウトサイダーキャラ、アリソン(アリ・シーディー)の「大人になると心が死ぬの("When you grow up...your heart dies.")」という名台詞が出てくるのも、このあたり。それでもこの5人はきっと、自分を少しだけ変えたこの半日の経験を胸のどこかに大切にしまって生きていくのだろうというのがこの映画の主題であり、エンディングのもたらす切ない感動は、今なお何ひとつ色褪せていません。

それはそれとして、『パワーレンジャー』のオチの付け方はこれとは少し違った方向を向いています。つまり、映画の核となる事件が終わっても彼らは友達でい続け、助け合おうとするだろうと思わせる含みがあるんです。見ていてしきりに思い出したのが、Netflixドラマ『センス8』の共同プロデューサー、マイケル・ストラジンスキーが、『センス8』について言っていたこちらの言葉でした。

つまり、僕らはバラバラでいるよりも一緒にいたほうが良いということ。今の社会では人々を分け隔てることに多くが費やされている。僕らは異なる場所の人々をひとつにすることについてのストーリーを手掛けたかったんだ。

この異質なものとの共存という現代的テーマを「スーパー戦隊ものの青春映画」という独自の枠組みで描こうと試みたのが、『パワーレンジャー』なのだと思います。そこがとても新鮮だったし、クライマックスでの戦いがこのテーマに現実味を持たせることに一役買っているところにも唸らされました。社会心理学などでの研究では、ステレオタイプや偏見を低減させるには、異なる者同士を単純に接触させるより、混成小集団で共通の目的のもとに各自が他者を必要とするような協同作業をさせるのがよいと言われています。そして、この映画の合体巨大ロボット「メガゾード」の激闘シーンは、まさにその協同作業に該当する描かれ方をしているとあたしは感じました。ここで命懸けの共通経験をしたからこそ、彼らのつながりがより深まったというわけで、ここには一定の説得力があると思います。

以上のようなわけで、あたしにとっての『パワーレンジャー』は「大人になっても心が死なない『ブレックファスト・クラブ』」です。悩み多き思春期の人生が交錯する瞬間をみずみずしくとらえつつ、それを一瞬のきらめきではなく、未来を照らす希望として描いた映画。もうすぐ日本での公開も終わってしまいますが、DVD/ブルーレイ待ちの皆さんは予習として『ブレックファスト・クラブ』を見ておくといいですよ。ほんとにあの傑作の21世紀バージョンですから。

トリニーの性的指向の描写について

事前に目を通した英語圏のレビューでは時間が短いだの、描き方が臆病だのと言われていたトリニー/イエローレンジャー(ベッキー・G)のセクシュアリティ描写でしたが、あたしはあれで大正解だと思いました。あれ以上濃密に描く必要ないでしょ、描いたら別の映画になっちゃうよ。それより、この場面でのベッキー・Gの視線の動きやことばのはぐらかし方、目にたまっていく涙、そこで気が付いてすかさずフェアな質問をするザック/ブラックレンジャー(ルディ・リン)の気働きの描写なんかを称えようよ。だいたい、いつもいつも恋愛やセックスを画面にばばーんと登場させなければ非ヘテロのキャラが描けないと思ったら、大間違いですしね。あたしら別に交尾のときだけ地上に現れて、交尾が終わったら死んじゃうセミとかじゃないんですから。

そうそう、濃密と言えば、ブルーレイに収録されている未採用シーンで、女ヴィランのリタ(エリザベス・バンクス)が嫌がるトリニーを押さえつけて顎をぺろりと舐める場面ってのがありましてね。先述のレッドとピンクのキスシーン同様、これをカットしたのは正解だったと思いました。もしこれが本編に採用されていたら「女性と女性との肉体的接触はエロティックで邪悪なことである」という陳腐なメタメッセージが生まれてしまっていたでしょうし、万一それと同時にレッドとピンクのキスまで採用されていたら、「男性ヒーローが美女を獲得することこそハッピーな正解である」という言外の意味まで醸し出されてしまっていただろうと思います。そうならなくて本当によかった。

その他

  • ボスキャラ役のエリザベス・バンクス、最高でした。怖いときはそこらのホラー映画が裸足で逃げ出すほど怖く、それでいてコミカルな側面もあり、しかも妖艶な美女というリタ・リパルサのキャラを、これ以上なく魅力的に演じてくれていたと思います。
  • リタに関しては特殊メイクもすばらしかったです。特典映像でエリザベス・バンクスが「6人がかりで何時間もかけてメイクした」てなことを言ってましたが、確かにそれぐらい時間がかかるのも当然と思われるほど凝りに凝った仕上がりでした。何かの賞を獲ったりしませんかね、あれ。
  • 格闘シーンの随所にカンフー映画へのオマージュが見られるところも楽しかったです。代表格は『クレイジーモンキー笑拳』のあの名場面を、トリニーとキンバリーが再現するところ。それでいて唯一のアジア系キャラ、ザック/ブラックレンジャーに「カンフー使いのミステリアスな中国人」役を絶対振ったりしないあたり、配慮が行き届いてるなあと思いました。
  • ポスターなどを見て、「イエローとピンクのスーツの造形が必要以上におっぱいボーン状態なのはどうなのよ」と思ってたんですが、映画の中ではそれほど目立っていなくてほっとしました。パワーレンジャーのジェンダーに関しては、エンディングでのトリニーと弟たちの会話が逆に面白かったです。
  • 続編作ってください。続編作ってください。続編作ってください。

まとめ

ティーンの成長物語や青春映画がお好きな方に一も二もなくおすすめできる、良い作品でした。劇場に足を運べずじまいで、今後DVD/ブルーレイで見ようかどうしようかとお悩みの方、悪いことは言わないから買っちゃえ買っちゃえ。その際、鑑賞時のおやつとしてクリスピー・クリーム・ドーナツも用意しておくとなお可です。意味は、見ればわかるよ!