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ノベライゼーション読むならこれ一択
リブート版映画『ゴーストバスターズ(2016年)』の子供向けノベライゼーション。新GBたちの魅力が存分に味わえる快作で、先日紹介した大人向けノベライゼーションよりよっぽど上等。ポイントは、簡にして要を得た文体と、場面転換のうまさ。
文体はハードボイルドです
この子供向けバージョンの何がいいって、直接的な心理描写を避け、常に行動を通してキャラの心情が説明されていること。本国での対象年齢が8~12歳だからってなめちゃいけない、れっきとしたハードボイルドの文体ですよこれは。キャラの心中の思いをいちいちイタリック体の独白にして長々と書き連ねていた大人向けノベライゼーションとは180度違っており、この手法を採用したのは大正解だったと思います。
ハードボイルド・スタイルの名手ヘミングウェイは、「氷山の動きの威厳は、それがわずか8分の1しか水面から出ていないことによるものだ(he dignity of movement of an ice-berg is due to only one-eighth of it being above water.)」と言っています。おおげさに聞こえるかもしれませんが、この子供向け『ゴーストバスターズ』小説も、その「わずか8分の1」を客観的に綴ることで、登場人物たちをより生き生きと描くことに成功していると感じました。想像の余地って、大事ですよやっぱり。読者が既に原作を鑑賞していて、心の中にそれぞれの考えるキャラ像ができている(ことが多い)ノベライゼーションというジャンルでは、特にそうなんじゃないかな。
本書のストーリーは映画のエクステンデッド版に近く、台詞は大人向けノベライゼーションとほぼ同じです。同一バージョンの脚本が下敷きになっているのか、大人向け版の小説に出てこなかった名台詞・名場面は、こちらでもやはり出てきません。しかしながら、こちらの方では常に行間から映画通りのキャラの魅力がむんむん立ちのぼっているため、それらの台詞や場面の欠落に気付く暇さえほとんどないほどでした。同じ「小説」という形式で同じ台詞をしゃべっていても、大人向け版よりこちらのホルツマンの方が断然可愛く、こちらのアビーの方が絶対かっこよく、こちらのエリンの方がはるかに愛すべきキャラに感じられることには驚愕。演劇なんかもそうですが、解釈と演出の違いというのはまことに大きいものですね。
場面転換も巧み
映画と違って小説には章ごとの区切りがあり、さらに章の中にもシーンとシーンの区切りがあります。その区切りを使った場面転換が抜群にうまいんだ、この作者。エリンが"Ghosts are real!"と大喜びする場面と、それがもとで大学をクビになる場面とのコントラストとか、あるピンチでどうしても電話連絡が間に合わない場面のクリフハンガー感とか、アビーが単身大渦巻きに飲み込まれたところのエリンの恐怖と絶望等々が、章と章との、あるいはシーンとシーンとの間に思い切りよく挿入された空白によってより強められていると感じました。ストーリーを全部知っていても、この緩急の差の付け方には自動的にドキドキさせられてしまいます。このあたりも先述の大人向けノベライゼーションとはずいぶん違っていて、比較するとなかなか面白いです。
その他
- 新GBたちのカラー写真が豊富に収録されているのもうれしいところ。印刷用の画像だけあって高画質ですし、映画には出てこない、おそらくスチールとして撮影されたとおぼしきショットのホルツマンも必見。
- 子供向け作品なためか、"shit"や"ass"などのような強い言葉や、性的な言葉はカットされています。そのせいでパティの台詞が一部弱くなってしまっているところが残念と言えば残念。
- だいたい高校程度の英語力で読めると思います。仮定法が出てくるし、語彙的にも中学英語ではちょっと足りなさそう。
まとめ
シンプルな文体と当を得た構成により、映画の魅力をかなり忠実に再現することに成功したノベライゼーションだと思います。新『ゴーストバスターズ』のノベライゼーションを読むなら、大人向けよりこちらの方がおすすめです。もうね、警察の事情聴取で「ゴーストがやった」ともごもごつぶやくホルツも、ラスト近くでジェニファー・リンチ市長補佐官(日本での通称が『秘書さん』なあの人)から「なんでも提供する」と言われて「なんでも?」と目をキラッキラさせるホルツも、こっちの方が絶対可愛いから。お好きな人ならごはんが三杯いける可愛さだから。
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