※映画本編(劇場公開版&エクステンデッド版)の感想はこちら。
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無残なまでに映画とは別物
本書はリブート版映画『ゴーストバスターズ(2016年)』の大人向けノベライゼーション。名台詞や名場面を無残なまでに削って、辛気臭い地の文で水増ししたという代物で、キャラの魅力も話のテーマもぼやけてしまっています。読む価値なし。
あの名セリフもこの名セリフもありません
基本的に映画のエクステンデッド版を下敷きにした小説なのですが、「映画のあの場面楽しかったなあ、小説だとどうなってるんだろう」と思いながら読むと、いちいちものすごい肩透かしを食らわされます。映画版でのこのあたりの名台詞が、跡形もなく消えているからです。
- 「ビッグホール! ビッグホール!」
- 「あんたに会えて100%興奮してる」("And 100% jazzed to meet you."*1)
- 「そんな靴で一日中歩いて疲れないんすか」
- 「その世界一小さいボウタイ、どこで買ったんすか」
- 「あんたが一番手が長いから」
- 「体内の鉄分レベルはわかる?」
- 「オバカが出たって」
- 「うーらー! うらめしやの略」("Booyah. Emphasis on the "boo".")
- 「キャスパー?」
- 「ひとつ? ふたつ? やっぱりひとつ?」
- 「体が裏表逆になっていた」→「その人たち、死んでると思うな」の流れ
- 「選んでいいよ、どれでも好きなのを。(取ろうとしたエリンに)Noooooooo!」→「スイス・アーミー・ナイフだ。女が丸腰で歩くのは危険だ」の流れ
- 「食べて、歌って、恋をして」
- 「引き戸だと思ってる」
- 「ハロー、ジリアン」
- 「景色を楽しめ」
- 「パワー・オブ・パティ」
- 「オバケなんか怖くない」("I ain't afraid of no ghosts.")
- 「クラーク・ケントのストリッパーグラム」
- 「空飛ぶビーフケーキ」
- 「サブアームの使用を推奨する」("Guys, you all all have your sidearms. I suggest you use them.")
- 「ホルツマンの勝ちだ!」("You just got holtzmanned, baby!")
- 「誰にもケヴィンは傷つけさせないよ!」
- 「あたしらはケヴィンが好きなんだ、イラッとするような奇癖がすごく、すごく、すごくたくさんあってもだ!」
- 「大統領は植物」
- 「物理学とは空間内での物体の運動を研究するもので……(略)」
これが全部ない映画『ゴーストバスターズ(2016年)』って想像つく? リブート版未見の方なら問題なく読めるのかもしれませんが、映画を見た後、これだけの欠落に耐えながら読み進めるのは相当つらいものがありました。
ちなみに台詞以外のギャグ(ケヴィンがコーヒーを噴き出す場面など)も大幅に消えてしまっているのですが、かと言って新しいギャグを入れるような工夫は特になく、単に辛気臭くてテンポが悪い地の文がずらずら並べられているだけです。もちろん、映画内でのこれらの台詞やアクションが全部アドリブで、ノベライゼーション作者が脚本を渡された時点ではまだ存在していなかったという可能性は否定し切れません。だとしても、これほど笑いどころのない新GBというのは、もはや「新GBのふりをした別物」では。
キャラも精彩を欠いてます
最大にがっかりしたのは、この小説版ではホルツマンの色気がまったくなくなってしまっていること。先述の消えた名台詞のリストを見れば大方予想はつくでしょうが、まず、あのエリンに対するちょっかいとも口説きともつかない言動の数々は、完全に「なかったこと」にされてしまっています。そして、ホルツのやんちゃな変人ぶりも、バトルシーンでのかっこよさも、軽く9割引きぐらいにパワーダウンしてしまっているんです。タイムズスクエアの二丁拳銃の場面など、たった4行しか記述がない上に、実質「両利きの器用さでゴーストをやっつけ始めた」としか書かれてないんですよ。ケイト・マッキノンの猫のようなブルーの瞳の魅力も、一瞬だけのぞくお腹*2やむき出しの肩*3のなまめかしさも、何ひとつ伝わってきません。なんでまた、こんなことに。
ポール・フェイグ監督が映画のオーディオ・コメンタリーで語っているところによると、ホルツマンは当初「イエス」とか「オーケイ」とかいう短い台詞が多かったため、ケイト・マッキノンと台本の読み合わせをしてもなかなかキャラが深まらなかったのだそうです。そこでケイトにホルツマンとして即興で1時間ほどインタビューに答えてもらい、そこからこないだ紹介した「12歳で家を出てアンデス山脈で詐欺師に」等の変人設定が湧き出して、現在のような破天荒な人物像が確立されたのだとか。この小説版のホルツマンを見ていると、どうもその「イエス」とか「オーケイ」としか言わない、つまりまだケイト・マッキノンのイマジネーションによって生命を吹き込まれていない最初期のホルツマンばかりを連想させられてしまいます。これもまた、書き手が脚本を受け取ったタイミングのせいなのかもしれませんが、だとしてもあれだけのキャラをここまで地味な存在にされてしまったのは痛恨の極み。
キャラが変わってしまっているのはホルツだけではなく、主人公のエリンもです。この本のエリンは映画のエリンよりしゃっちょこばっていて、否認癖が強くて、不誠実で、昔のエリンに戻るのも遅くて、「人からどう見られるか」に汲々としていて、つまりあの「ビッグホール! ビッグホール!」と浮かれて尻を振る愛らしいエリンとはだいぶ違った人物となっています。小説版ではそもそも序盤の「ビッグホール!」の場面自体が存在せず、代わりに映画では結局採用されなかったグロ度高めの回想シーン*4がねっちり書き込まれていたりして、全般的にエリンの描写が必要以上に重苦しい印象を受けました。このノベライゼーションを手掛けたナンシー・ホールダーはブラム・ストーカー賞も受賞したホラー作家なのだそうですが、ホラーじゃなくてコメディーが得意な人を起用した方がよかったのでは。
テーマはもはや別物
上で書いたエリンのキャラ造形とも関係してくるのですが、この小説は1984年版の方の映画『ゴーストバスターズ』よろしく、「人から認められること」にやたらと重きを置くストーリーになってしまっていると思います。わざわざコロンビアの学長がエリンを認め直すシーンなんぞ、入れなくていいのに!! たぶんこの改変(改竄?)と連動しているのだと思いますが、このノベライゼーションには、あのタイムズスクエアの戦いでの「一人のピンチを、必ず別の仲間が助ける」という美しい連携アクションはまったく登場しません。終盤でのホルツの演説も映画より相当簡素で、もはや別物です。リブートの意味、まるでなし。
まとめ
パンチラインがことごとく消えててさっぱり笑えないし、ホルツの色気もエリンの魅力もないし、テーマはほとんど旧作『ゴーストバスターズ』に先祖返りしているしで、見るべきところがひとつもないノベライゼーションでした。映画のファンで、英語の勉強などのため新GB関連本を読んでみようとお考えの方には、これよりも『過去からのゴースト』(原題: "Ghosts from Our Past: Both Literally and Figuratively: The Study of the Paranormal")(レビュー)の方がおすすめです。あれはリブート版の世界そのままで、この本の一億倍面白いから!
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