石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『なんどもなんども恋をする』(KUJIRA、松文館)感想

なんどもなんども恋をする (ダイヤモンドコミックス)

なんどもなんども恋をする (ダイヤモンドコミックス)

思春期少女たちのエロあり恋愛模様(百合話2編あり)

『GIRL×GIRL×BOY-乙女の祈り』で♀×♀×♂の三角関係を描いてみせたKUJIRA氏のデビュー単行本です。初出が「エルティーンcomic」(近代映画社)や「誰にも言えないマル秘○○」シリーズ(松文館)だったりすることからわかる通り、10代少女向けの、性的表現多めの短編集となっています。援交やカジュアルセックスなど、いかにもティーン向けのわかりやすい過激さ(ちなみに擬音は『ズッチュ ズッ ズッ』とか)満載なので、そのへんがネックになって合わない人もけっこういるかも。2編の百合話については、片方には「同性同士の関係=未熟な、隠すべきもの」的なニュアンスがやや目立つものの、もう一方は女のコから女のコへの好き感情を爽やかに肯定しており、よかったです。

百合話その1「花咲くタネ」について

双子の姉「るり」にコンプレックスを抱く主人公の「るい」は、自らの不安を埋めるため

ひとつになろう? 生まれる前みたいにあたしたち

と言って(p. 35)るりと体の関係を持ち続けていた。ところがやがてるりには彼氏ができて……というお話です。
セックス込みの双子百合という設定そのものが萌えな方にはストライクゾーンかもしれませんが、個人的には、

  • るいの想いが一種の成熟拒否であること
  • 2人の体の関係は、結局「隠すべきこと」として否認されてしまうこと
  • 同性愛的な関係を脱却することが「個の確立」であるとするようなオチ

に疑問を覚えました。どうも、Riddle Homophobia Scaleで言うところのレベル3のホモフォビアの香りがすると思うんですよ。掲載誌が「誰にも言えないマル秘禁断の恋II」(松文館)だったために2人の関係を「誰にも言えない」「禁断の」ものとして描くより他なかったのかもかもしれませんが、だとしてもこの展開はあまりにステレオタイプすぎて退屈だと感じました。

百合話その2「Strawberry Mocha」について

カッコイイ同級生女子「ゆうり」にあこがれる「みなと」の物語。ゆうりもみなとも男と寝てますし、「花咲くタネ」とは違って、女性同士のセックスシーンはみなとの妄想の中でのみ。ですが、♀♀話としては、こちらの方がはるかに濃いと思いました。みなとの想いを、

あたしゆうりが好きだよ
友達としてじゃなくて「セックスしたい」っていう「好き」なの!

というド直球で描くところ(p. 149)がまず面白いし、それに続くゆうりの反応や、よく練られた小説のような余韻を残すラストも楽しかったです。

まとめ

百合目当てで読むなら「Strawberry Mocha」がイチオシ。「花咲くタネ」の方は、「同性愛は未熟な発達過程でのできごと」的なステレオタイプを内面化した人じゃないとちょっと厳しいかも。全体的にはホルモン炸裂中のティーンエイジャー向けのあけすけな男女エロ描写が多く、さらに野郎の体毛やオヤジのメタボ腹等も容赦なく登場するため、その点でも多少読む人を選ぶ1冊だと思います。