納得の完結編
NetflixオリジナルSFドラマの完結編スペシャル。2時間半の枠の中で畳むべき風呂敷を畳み切り、後日譚に思いきって時間をかけるという大胆な構成がすばらしかったです。テーマの現代性にも、みなぎるクィアネスにも脱帽。
メリハリの利いたシナリオ
『Sense8』は、感覚と能力を共有できる新しい人類「ホモ・センソリウム」(別名『センセイツ/sensates)と、彼らを追う何者かの戦いを描くSFアクション。もともと全5シーズンの予定だったのにシーズン2で打ち切りとなり、熱心なファンたちの呼びかけでこの2時間半の完結編(シーズン2第12話『愛はすべてに打ち勝つ』)の制作が決まったという経緯を持ちます。主人公だけで8人もいて、世界10ヶ国以上のロケで作られてきたこの壮大な話をわずか150分でどうまとめるのかと期待半分、ハラハラ半分で見たのですが、いやあ、すごかった! マジカルな手腕で無事結末まで漕ぎつけていて、しかも、面白かった!
まず、脚本がよく整理されていたと思います。謎解きの部分は老賢者(的立ち位置のキャラ)との会話でサクサク片づけ、それで浮かせた時間を約30分ものエピローグにぶちこむという思い切った構成に、まず拍手。また、ジョジョの第5部なみにヨーロッパを移動しまくる展開でありつつ、話の軸を一貫してヴォルフガング(マックス・リーメルト)とウィスパーズ(テレンス・マン)の人質交換に置いてわかりやすくしたのも良策だったと思います。そうは言っても、すべて終わってから「そういえばあのキャラのあのサブプロットはどうなったの……?」と思う部分もあるにはあるのですが、そこまで全部追っていたらとてもオチまでたどりつけなかっただろうということもわかるので、この割り切った話運びはやはり正解だったと思わざるを得ません。個々のサブプロットは、ファンが各自脳内ファンフィクションで補完すればいいのよ!
また、話の枝葉を刈り込みながらも、アクションや笑いどころや、これまでの名シーンの振り返りには惜しみなく時間を割いているところもよかったです。完結編で突然出てきた秘密のクラスター(センセイツのグループ)についての説明はごくあっさり済ませる一方で、フェリックス(マクシミリアン・マウフ)がナポリのピザを激賞する場面や、ダニ(エレンディラ・イバラ)の意外な特技や、ムン刑事(ソン・ソック)の軽口などは決してカットしないというこのバランス感覚を、あたしは支持します。お話を前に進めていくのは設定資料の読み上げ大会ではなく、キャラたちの生き生きした動きですからね。
手堅くも新しいエピローグ
前述のエピローグは2部構成になっていて、前半ではノミ(ジェイミー・クレイトン)とアマニタ(フリーマ・アジェマン)の結婚式が、後半ではメインキャラたちの日常への回帰(と、彼らがこれまでの旅で得た神秘的な力)が描かれます。婚礼というモチーフで秩序・調和の回復を表すのも、ヒーローたちが大切な物を得て帰還するところで話の幕を閉じるのも、言ってしまえば非常に古典的な手法です。その古典的な物語構造を使って、「分断はアカン」、「人と人をつなぐものは、人と人を断絶しようとする力より強い」というとびきり現代的なテーマを力一杯打ち出しているところが大変面白いと思いました。こういうところが手堅いよね、ラナ・ウォシャウスキー。
ちなみに、よく見るとノミとアマニタの婚礼には「インターレイシャルな、しかもシスジェンダー女性とトランスジェンダー女性のレズビアン・ウェディング」という新しさがあり、ドレスのデザインやウエディングアイルでのエスコート役も全然伝統的ではなかったりします。式の後、日常に戻ったメインキャラたちが経験する歓喜も、早い話がS1E6でずいぶん話題になった肌色多めのシーンの拡大バージョンであって、ジェンダーの面でもセクシュアリティーの面でも少しもクラシカルではありません。この部分はルーベンスの宗教画のような美しい映像で描かれているのですが、これもおそらく古臭いMale Gazeによるポルノ扱いを拒否するという意図あってのことなんじゃないかと自分は思いました。このような細部に宿る新しさも、またよかったと思います。
みなぎるクィアネス
完結編を2回通りぐらい見終わった後、復習としてシーズン1からひと通り見直していて、しみじみ思いました。「このドラマ、従来のシスヘテ男性目線の撮り方だったら絶対終盤で『ロボトミー化されてモンスターと化したノミをアマニタが泣く泣く殺し、なきがらにとりすがって号泣』みたいなくっだらないメロドラマにされてたよなー……」と。
でも、『Sense8』は最後までそんな展開にはなりませんでした。この作品では愛し合うレズビアンカップルは最後まで殺されず、単なる多様性アピールのためのサイドキック扱いもされず、作品全体のテーマを担うエピローグで堂々と主役を張っているんです。この2018年にあってさえ、これがいかに画期的なことか。おまけにそのエピローグで、シーズン1第1話のプライド・イベントのエピソードで出てきたふたつのアイテムがそれぞれ重要な役割を果たしているのを見て、もうあたしゃ泣きそうになりましたよ。この分断と対立の時代の中、非主流派が持つ可能性や希望をこうやってたたえるためにこそ、ここまでの24話があったのだと思います。
まとめ
限られた条件の中、思い切った取捨選択でここまでビューティフルなエンディングに着地してみせた手腕にはもう賛辞しかありません。クィアなキャラの扱いもよかったし、テーマも今の時代にこそ必要なものだしで、大変納得のいく完結編でした。おすすめ。